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西の海を越えて


公園の中ほどに立つ、一本の大きな桜の木。
その下に佇むベンチには、すこし紅くなった数枚の葉の先客が居た。
私はいつもの様にそのベンチに腰掛け、ギターケースを脇に置く。ケースもギターも年季が入っている。その割には、何年練習してもいっこうに上手くならない。でも、弾くことは好きだから何となく続けている。

最近インターネットの中で、あるアジアの音楽に出逢った。男性アーティストが弾くアコースティックギターの、心に沁みるような音色と柔らかな歌声に、心惹かれて忘れられなくなった。お気に入りに登録して、何度も何度も聴いた。
―この曲を、ギターで弾けるようになりたい。―

数日後に、輸入雑貨のネットショップでその曲の楽譜を見つけて注文した。届いた楽譜を開いてみたら、歌詞は全て漢字……うわっ! そうだ、日本語じゃないんだった。
でも、コードは4つだけ。歌詞はともかく、これなら私にも弾けるかも知れない! 心が踊った。会社の昼休みは暇なので、ギターの練習で時間を潰せるのが嬉しい。毎日のように公園に通うのが日課になった。

 ひとりの夜は とても長い
 君を想わない日は 一日もない
 たった一つの誤解が
 ふたりを引き離した
 また やり直せるだろうか
 会いたい もう一度
 いますぐ 君に 会いたい

コードもシンプルなら内容もシンプルな、どことなく切ないバラードだ。


更新日:2010-12-02 02:53:04

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