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LAST CHRISTMAS

『LAST CHRISTMAS』


 『再会』などというものは小説に書かれているような、そんな劇的なものじゃない。
 映画のワンシーンのように感動のあまり涙を流す、なんて事もありはしない。
 少なくとも僕はあの日までずっと、そう思っていた…。

 そう、あの日…僕は一人で迎えるイブの夜から逃れるために街へと飛び出した。
彼女と別れて、もう何年経つのだろう?その間、僕はずっと一人だ。
なぜ別れたのかと聞かれても決定的な理由などありはしない。
誰にでも一度や二度はある、些細な口喧嘩というやつだ。


 だがクリスマスが近づき、一年が終わろうとする頃にはいつも彼女を
思い出してしまう。
 イブになると寂しさを紛らすために町に出るのは、そんな理由からだ。
 何故?もしかしたら彼女と会えるかもしれないという期待からか。
 そうかもしれない…だが今も彼女が、この街にいるとは限らない。

 だが、彼女はいた。
 偶然か、神様のお導きか、とにかく僕は彼女を見つけてしまった。
 もし空からサンタクロースが誤って落としてしまった玩具を、同時に
拾おうとして顔を合わせていたのなら、どんなに素敵な再会だっただろう。

 でも、現実はそうではなかった。
 僕はやっとの思いで彼女を見つけたのに、すぐに声を掛ける勇気がなかった。
 誰もが一生のうちに何度か体験するような、ごくありきたりの遭遇で物語りは
幕を開ける。

 ショッピングセンターの6階のレコード売り場に彼女はいた。
 何のレコードなのか見えなかったけれど、とにかく彼女はそれを持ってレジに
行き支払いを済ませようとしていた。
 僕は思い切って声を掛けようと近づいたけれど、プレゼント用にラッピングを
頼んでいるのが聞こえ躊躇してしまった。

更新日:2010-12-19 12:28:13

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