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7.終息


 理子はそっとリビングに入った。
 雅春は、ソファの上にいた。自分の膝の上に肘を付き、
頭を抱えていた。目の前のテーブルの上にはウイスキーが
入ったコップが置いてある。氷も何も入っていない。
ストレートのようだった。
 理子が近寄ると、その気配に気づいたのか雅春が顔を上げた。
目の縁が微かに赤い。泣いていたのだろうか・・・。
「理子・・・」
 理子の姿を認めて、雅春は驚いた。
 二人は暫く、言葉の無いまま見つめ合った。雅春は打ちひしがれた
様子だ。悲しみに支配されているのがわかる。
 理子はゆきからの電話で、今学校で起こっている事を聞いて驚愕した。
茶道部、合唱部、歴研の後輩達は今でも二人に好意的だそうだが、
それ以外の生徒達の雅春への仕打ちは、余りにも酷い。
雅春が一生懸命指導しているブラバンの生徒達ですら、
雅春に批判的な態度を取っていると聞き、胸が痛んだ。
 先生は、毎日、そんな中にずっといたんだ…。
 日に日に疲れを増した様子をしていたのは、そのせいだった。
今日、PTAの会長が苦情を言いに来たらしい。そして、放課後
職員会議があったと。雅春のメールには、今日は特に酷かったと
あった。それらの事を指しているのか。
 雅春が辛い立場に立たされている事はわかった。全部、自分と
結婚したが為だ。相手が私じゃ無かったら、こんな仕打ちは
受けなかった筈だ。
 だけど。
 だけど・・・・。

更新日:2010-11-17 10:48:30

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