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§(3),海へ


    §(3),海へ



 それは7月25日の早朝、快晴の空の下だった。
山上は腰をカクカクしながらガォ~!と叫び、小島クンはこれまで貯めていた貯金で買った新しいカメラをぶら下げ、俺は新しい出会いを求めて海のある町に出発した。
 JRで所要時間7時間、途中で駅弁を食い、次に車両が2つしかないローカル線に乗り換え無人駅に下りる。
時刻は午後2時半。
 駅のホームで、すぐに吉田と言うオッチャンが俺たち三人に声を掛けた。

「 あ、やまうえ君?」
「 いえ、やまがみです。」
「 あ、そうか、やまがみ君か・・・。
メモに山上って書いてあったから。
そうか、やまがみなのか・・・。」
「 ハイ、やまがみです。」
「 車で迎えに来たよ。
駅からちょっとあるからね。」
「 ありがと、ございます!」
「 じゃ、行こうか、やまうえ君。」

吉田さんは50才ぐらいで番頭さんの感じ。
俺たちは、吉田さんの運転する送迎用のワゴン車に乗って一路、民宿やまてつへ。
 ここで、山上の母親から聞いた民宿やまてつの現況紹介。
民宿やまてつがある町は、昔は海沿いの宿場町として栄えていたらしいのだが、JRから少し離れていることもあって寂れ、人も減ってしまった。
で、細々と漁業をしていたのだが、近年、これではイカンって訳で町興しを画策、海釣りと海水浴をアピールし、昔からの老舗の家々は建物を改造してアンティーク民宿として再生、それで訪問する人もボチボチ増えて来ているとのこと。
 そして、古風な感じの民宿やまてつの玄関で、女将が笑顔で迎えてくれた。
女将はキリッとした40才前後の細身の美人。

「 ようこそ、やまてつへ!」
「 よろしくお願いします。」
「 よろしくお願いします。」
「 よろしくお願いします。」

三連発の挨拶を済ますと、吉田さんに寝泊りする部屋に案内されて荷物を降ろす。

「 じゃ、女将が呼びに来るからね。
社長に会わせるから、ちゃんと挨拶しろよ。」
「 ハイ。」

吉田さんが去ると、山上の発作が突如始まった。




更新日:2010-11-21 15:28:12

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過ぎ去った季節の中に  ~2,潮騒の夏~