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外伝2:続・騎士物語
兄上の足跡(そくせき)を探そうと、意気込みよく城を飛び出してみたものの、関所を越えた辺りで、俺は途方に暮れていた。旅に出る事を決めていざ出発してみると、王都から一度も外へ出た事は無く、何処へ向かえばいいのやらさっぱり解らないのだ。
季節はゆっくりとではあるが、春から夏に向かって変わろうとしてる。俺の髪を靡かせながら頬を撫でていく初夏の風は、暑くもなく寒くもなく気持ちいい心地で、抜けるような青空は絶好の旅日和と言えた。
街道はこの先、東と西へ大きく進路が別れている。東の街道はマール山脈まで続いていて、マール山脈を越えるとフィーネ公国だ。西の街道は隣りのセント公国、更には大陸南端まで続いている。大陸南部のサウル地方を治めているのが、カーレの領主:フィレ公爵だ。フィレ閣下の優しい笑顔が、一瞬俺の頭をよぎる。俺は自分の甘い考えを打ち消そうと、頭を左右に振り再び気合いを入れ直してから、街道を東へ向かって歩き出した。
マール山脈は冬になると一面氷に閉ざされて、人を一切寄せ付けなくなる。その為、フィーネは別名“雪の国”とも呼ばれている。大陸東海岸から吹き付ける冷たい風は、マール山脈でせき止められるので、王都は1年を通して温暖な気候に恵まれている。冬場は生活が厳しいと言うフィーネの領民に、王都の者は幾許かの思い入れがあるのが実情だった。
フィーネ公国を統治するレイハート侯爵は、王都の現・国王陛下の双子の弟に当たる人物だが、この方に関しては王都ではあまり良い噂は聞いた事がない。
それにフィーネと言えば、海風に恵まれた肥沃な大地で作られる小麦・大麦が有名で、フィーネ産の小麦から作られるパンはとても美味しくて、大陸中のパン職人から“黄金の小麦粉”とまで呼ばれいるくらいだ。そう言えば最近、フィーネ産の小麦が王都で異常なまでの高騰で、元老院でも話題になってたな。
(幾ら肥沃な大地でも、不作くらいはあるだろう普通?…大袈裟だよな)
雪の国・フィーネ、今頃は見渡す限り黄金色の輝きに大地は覆われているだろう。今から行くのが楽しみだ。
街道が煉瓦舗装から地道へ変わり、森の中へと続いて行く。道も、やや上り勾配になっているみたいだ。森を抜けると、いよいよマール山脈の入口だった。
木々に遮られ、森の中は昼間でも鬱蒼と暗い。前方にまるでトンネルのように、明るい出口が見えてくる。森の出口付近で、何か言い争う声が聞こえてきたので、俺は少し早歩きで出口に向かった。
森を抜けた所からマール山脈の山道になっており、山道の前にフィーネの関所が設けられていて、関所の役人とフィーネに向かう商人達が口論をしていた。
「何を言ってるんだ、あんた!俺達は只の商人で、別に怪しい者じゃないだろう?何で俺達がフィーネに入れないんだ?!」
「だから何度も言ってるだろう!レイハート様の許可がない者は、何人(なんぴと)だろうとここを通す訳にはいかない!さぁ解ったなら、帰った帰った!」
役人に一番喰って掛かっていた商人が、突き飛ばされて後ろへ倒れ込む。慌てて仲間達が彼を助け起こすと、街道を王都方向へ戻りながら、ブツブツと文句を言っていた。
「くっそー、横暴な役人だ!王都の役人に言い付けてやるからな!!」
商人と擦れ違い様関所に目をやると、役人が俺を見つけて新手が来たとばかりに、山道の前で槍を構え直した。
「お前…何だ、子供か。子供がこんな所で何をしてるんだ?」
「王都からフィーネの親戚の家まで行きたいんだけど…」
「駄目だ、駄目だ!今この関所は、通行止めになっている。王都へ帰って、親にそう言いなさい。解ったな!」
「え~っっ、そんな、俺困るよ。叔父さんに薬を持って行くよう、頼まれてるんだ。お役人さん、お願い。ここを通してよ」
「駄目だと言ったら駄目なんだ!文句があるなら、レイハート様に通行許可を貰うんだな!」
「ちぇっ、解ったよ」
俺はクルリと踵を返して森の中へ、もと来た道を一旦戻って行く。役人から充分見えない位置まで街道を戻ると、俺は辺りの様子を窺った。さっきの商人達がまだ近くに居ないか、確認したのだ。辺りに人が居ないのを確かめて、俺は街道を外れて一気に森の中へ入って行った。
季節はゆっくりとではあるが、春から夏に向かって変わろうとしてる。俺の髪を靡かせながら頬を撫でていく初夏の風は、暑くもなく寒くもなく気持ちいい心地で、抜けるような青空は絶好の旅日和と言えた。
街道はこの先、東と西へ大きく進路が別れている。東の街道はマール山脈まで続いていて、マール山脈を越えるとフィーネ公国だ。西の街道は隣りのセント公国、更には大陸南端まで続いている。大陸南部のサウル地方を治めているのが、カーレの領主:フィレ公爵だ。フィレ閣下の優しい笑顔が、一瞬俺の頭をよぎる。俺は自分の甘い考えを打ち消そうと、頭を左右に振り再び気合いを入れ直してから、街道を東へ向かって歩き出した。
マール山脈は冬になると一面氷に閉ざされて、人を一切寄せ付けなくなる。その為、フィーネは別名“雪の国”とも呼ばれている。大陸東海岸から吹き付ける冷たい風は、マール山脈でせき止められるので、王都は1年を通して温暖な気候に恵まれている。冬場は生活が厳しいと言うフィーネの領民に、王都の者は幾許かの思い入れがあるのが実情だった。
フィーネ公国を統治するレイハート侯爵は、王都の現・国王陛下の双子の弟に当たる人物だが、この方に関しては王都ではあまり良い噂は聞いた事がない。
それにフィーネと言えば、海風に恵まれた肥沃な大地で作られる小麦・大麦が有名で、フィーネ産の小麦から作られるパンはとても美味しくて、大陸中のパン職人から“黄金の小麦粉”とまで呼ばれいるくらいだ。そう言えば最近、フィーネ産の小麦が王都で異常なまでの高騰で、元老院でも話題になってたな。
(幾ら肥沃な大地でも、不作くらいはあるだろう普通?…大袈裟だよな)
雪の国・フィーネ、今頃は見渡す限り黄金色の輝きに大地は覆われているだろう。今から行くのが楽しみだ。
街道が煉瓦舗装から地道へ変わり、森の中へと続いて行く。道も、やや上り勾配になっているみたいだ。森を抜けると、いよいよマール山脈の入口だった。
木々に遮られ、森の中は昼間でも鬱蒼と暗い。前方にまるでトンネルのように、明るい出口が見えてくる。森の出口付近で、何か言い争う声が聞こえてきたので、俺は少し早歩きで出口に向かった。
森を抜けた所からマール山脈の山道になっており、山道の前にフィーネの関所が設けられていて、関所の役人とフィーネに向かう商人達が口論をしていた。
「何を言ってるんだ、あんた!俺達は只の商人で、別に怪しい者じゃないだろう?何で俺達がフィーネに入れないんだ?!」
「だから何度も言ってるだろう!レイハート様の許可がない者は、何人(なんぴと)だろうとここを通す訳にはいかない!さぁ解ったなら、帰った帰った!」
役人に一番喰って掛かっていた商人が、突き飛ばされて後ろへ倒れ込む。慌てて仲間達が彼を助け起こすと、街道を王都方向へ戻りながら、ブツブツと文句を言っていた。
「くっそー、横暴な役人だ!王都の役人に言い付けてやるからな!!」
商人と擦れ違い様関所に目をやると、役人が俺を見つけて新手が来たとばかりに、山道の前で槍を構え直した。
「お前…何だ、子供か。子供がこんな所で何をしてるんだ?」
「王都からフィーネの親戚の家まで行きたいんだけど…」
「駄目だ、駄目だ!今この関所は、通行止めになっている。王都へ帰って、親にそう言いなさい。解ったな!」
「え~っっ、そんな、俺困るよ。叔父さんに薬を持って行くよう、頼まれてるんだ。お役人さん、お願い。ここを通してよ」
「駄目だと言ったら駄目なんだ!文句があるなら、レイハート様に通行許可を貰うんだな!」
「ちぇっ、解ったよ」
俺はクルリと踵を返して森の中へ、もと来た道を一旦戻って行く。役人から充分見えない位置まで街道を戻ると、俺は辺りの様子を窺った。さっきの商人達がまだ近くに居ないか、確認したのだ。辺りに人が居ないのを確かめて、俺は街道を外れて一気に森の中へ入って行った。
更新日:2010-12-30 16:03:21