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外伝1:騎士物語
俺には幼い頃の記憶が一切無い。
気が付くと、知らない部屋の天井が見えて、次に視界へ入ってきたのは、知らない少女の心配そうな顔だった。幼心に、可愛いお姉さんだと思ったものだ。
少女は俺と目が合うと、まるで鈴が転がるような凛とした声で、部屋の外へ駆けて行った。
「お父さま!アークが、アークが目を覚ましたの。お父さまぁ!!」
「嗚呼、姫様。走ると危のう御座います、姫様!」
少女の後を追って、侍女達が慌てふためいている。すぐに知らない大人達が代わる代わるやって来て、俺が何も知らないと解かると、皆一様に驚きと戸惑いを見せていた。
それから、すぐに城内の色んな場所へ連れて行かれたような気がする…。何せ、覚醒直後で記憶が曖昧なのだ。
あのお姉さんは、俺が彼女の事を何も憶えていない事が理解出来ないみたいで、しきりに俺へ語り掛けてくる。
「どうして?私はアークの事知ってるのに、アークは私の事知らないの?ねぇ、どうして?」
「どうしてって言われても…。僕、本当に何も知らないんだ、ごめんね」
「姫様、あまり駄々を言われますと、アーク様もお困りになりますよ」
「は~い」
侍女の注意に渋々返事をしているようで、頬をぷーっと膨らませている。本当に可愛らしい人だ。
王様が俺の側へやって来て、確かめたい事があるからと、俺と赤い鎧の騎士を連れて、城の地下へと連れて行かれて…、そこで俺はこの相棒【太陽の剣】を手に入れたらしい。らしいと言うのは俺の記憶が、地下室へ入り王様に「ソレの封印を解いてみよ」と命令された辺りで、ブッツリと途切れているからだ。
気が付くと、俺は赤い鎧の騎士に腕を掴まれ、城の地下から城の外に在る別の建物へと連れて行かれていた。
「痛いっ、痛いよ。放して!」
「黙れ!貴様の…貴様のせいで、王が!何故貴様のような化物を、王はお助けになられる?!陛下の勅命でなければ貴様など、私自ら手討ちにしてくれるものを…!!」
俺は瞬時に理解する。嗚呼この人は、俺を憎んでいる。
俺が連れて行かれたのは、どうやら騎士の屋敷だったようで、城から知らせを聞いた家人達が、怯えた様子で事の成り行きを黙って見ていた。
騎士は中庭へ俺を連れて行くと、俺を地面へ突き倒した。
「貴様が本当にその剣を持つに相応しいか否か、私が見極めてくれる!さぁ、太陽の剣を構えよ!!」
この人は一体何を言っている?子供の身の丈程もあるこんな重たい剣を、子供が振り回せるとでも本気で思っているのか!?
地面に倒れたままの俺の喉元に、騎士の剣の切っ先が当たる。…本気だ。
体がガタガタと震え出し、立ち上がろうとしても足に力が入らない。
その時、屋敷の中から誰かが飛び出して来て、俺を優しく抱き上げてくれた。金髪に深緑色の瞳をした、まだ歳の若いお兄さんだった。
「父上っ、陛下の勅命に背く気ですか!このような幼子に、一体何のおつもりですか!」
「エルリック!」
「貴方は疲れているのです、後は私にお任せ下さい。爺!父上を早くお部屋へ!」
「畏まりました、エルリック様」
爺と呼ばれた執事と騎士が屋敷の中に入って行くと、中庭での騒ぎを見ていた他の使用人達に向かって、エルリックと呼ばれたお兄さんが言う。
「お前達も、何故黙って見ていたのです!この子は何も悪くない、父上の方がどうかしている。…さぁ、早く自分達の持ち場へ戻りなさい!」
まるで蜘蛛の仔を散らしたみたいに家人達が屋敷内へ消えて行くと、彼は優しく俺に微笑み掛けてくれる。
「すまない、アーク。父上は城での一件で、気が動転してるんだ。お前は何も悪くないんだよ」
「あの…アークって、僕の事ですか?」
「…そうか、記憶を失くしていたんだね。父上は、そんな事も教えてなかったのかい?そうだよ、“アーク”これがお前の名前だ。そして今日からこの屋敷が、お前の家になる。王のご命令で、父上がお前を養子に迎えたんだよ。私の名はエルリック、今からアークは私の弟だ」
それが兄上と交わした、最初の言葉であった。
気が付くと、知らない部屋の天井が見えて、次に視界へ入ってきたのは、知らない少女の心配そうな顔だった。幼心に、可愛いお姉さんだと思ったものだ。
少女は俺と目が合うと、まるで鈴が転がるような凛とした声で、部屋の外へ駆けて行った。
「お父さま!アークが、アークが目を覚ましたの。お父さまぁ!!」
「嗚呼、姫様。走ると危のう御座います、姫様!」
少女の後を追って、侍女達が慌てふためいている。すぐに知らない大人達が代わる代わるやって来て、俺が何も知らないと解かると、皆一様に驚きと戸惑いを見せていた。
それから、すぐに城内の色んな場所へ連れて行かれたような気がする…。何せ、覚醒直後で記憶が曖昧なのだ。
あのお姉さんは、俺が彼女の事を何も憶えていない事が理解出来ないみたいで、しきりに俺へ語り掛けてくる。
「どうして?私はアークの事知ってるのに、アークは私の事知らないの?ねぇ、どうして?」
「どうしてって言われても…。僕、本当に何も知らないんだ、ごめんね」
「姫様、あまり駄々を言われますと、アーク様もお困りになりますよ」
「は~い」
侍女の注意に渋々返事をしているようで、頬をぷーっと膨らませている。本当に可愛らしい人だ。
王様が俺の側へやって来て、確かめたい事があるからと、俺と赤い鎧の騎士を連れて、城の地下へと連れて行かれて…、そこで俺はこの相棒【太陽の剣】を手に入れたらしい。らしいと言うのは俺の記憶が、地下室へ入り王様に「ソレの封印を解いてみよ」と命令された辺りで、ブッツリと途切れているからだ。
気が付くと、俺は赤い鎧の騎士に腕を掴まれ、城の地下から城の外に在る別の建物へと連れて行かれていた。
「痛いっ、痛いよ。放して!」
「黙れ!貴様の…貴様のせいで、王が!何故貴様のような化物を、王はお助けになられる?!陛下の勅命でなければ貴様など、私自ら手討ちにしてくれるものを…!!」
俺は瞬時に理解する。嗚呼この人は、俺を憎んでいる。
俺が連れて行かれたのは、どうやら騎士の屋敷だったようで、城から知らせを聞いた家人達が、怯えた様子で事の成り行きを黙って見ていた。
騎士は中庭へ俺を連れて行くと、俺を地面へ突き倒した。
「貴様が本当にその剣を持つに相応しいか否か、私が見極めてくれる!さぁ、太陽の剣を構えよ!!」
この人は一体何を言っている?子供の身の丈程もあるこんな重たい剣を、子供が振り回せるとでも本気で思っているのか!?
地面に倒れたままの俺の喉元に、騎士の剣の切っ先が当たる。…本気だ。
体がガタガタと震え出し、立ち上がろうとしても足に力が入らない。
その時、屋敷の中から誰かが飛び出して来て、俺を優しく抱き上げてくれた。金髪に深緑色の瞳をした、まだ歳の若いお兄さんだった。
「父上っ、陛下の勅命に背く気ですか!このような幼子に、一体何のおつもりですか!」
「エルリック!」
「貴方は疲れているのです、後は私にお任せ下さい。爺!父上を早くお部屋へ!」
「畏まりました、エルリック様」
爺と呼ばれた執事と騎士が屋敷の中に入って行くと、中庭での騒ぎを見ていた他の使用人達に向かって、エルリックと呼ばれたお兄さんが言う。
「お前達も、何故黙って見ていたのです!この子は何も悪くない、父上の方がどうかしている。…さぁ、早く自分達の持ち場へ戻りなさい!」
まるで蜘蛛の仔を散らしたみたいに家人達が屋敷内へ消えて行くと、彼は優しく俺に微笑み掛けてくれる。
「すまない、アーク。父上は城での一件で、気が動転してるんだ。お前は何も悪くないんだよ」
「あの…アークって、僕の事ですか?」
「…そうか、記憶を失くしていたんだね。父上は、そんな事も教えてなかったのかい?そうだよ、“アーク”これがお前の名前だ。そして今日からこの屋敷が、お前の家になる。王のご命令で、父上がお前を養子に迎えたんだよ。私の名はエルリック、今からアークは私の弟だ」
それが兄上と交わした、最初の言葉であった。
更新日:2010-12-03 21:23:55