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第4章:兆し

 大陸南部の地方都市:カーレより、世界の中心都市:シルバーブルクまで、順調に行けばひと月もあれば到着する道程であったが、如何せんこの最強パーティの旅路に順調の二文字はないようだ。
カーレを後に、一路北へ向かって大陸中央を縦断する街道を選んだのは良かったが、出るわ出るわ、妖魔と盗賊の数々。お陰で一行は王都到着予定日を迎えているのに、未だ王都には到着していなかった。やっとフィレ公爵の領地を出て、隣のセント公国に入ったばかりである。王都に入るまで、あと大きな町を2つと、峠を3ヶ所越えなくてはならない。
 このひと月あまり一緒に旅をしていて、ヒロには解らない事が1つあった。それは、新しい町に到着すると、その日1日必ずと言っていい程アークは何処かへ行ってしまい、夜半頃に宿屋へ戻って来るのである。一度コージャにそれとなく訊いてみた事があったが、コージャ曰く…、
「自称傭兵なんだから、雇い主にでも連絡を取ってるんじゃないか?すぐに戻って来るんだし、心配しなくてもいいんじゃねぇの?」
 …だそうである。気にはなるけど、本人に直接訊いてみる勇気がなく、何だか胸の中が閊えているような、すっきりしないヒロであった。

 前日に小さな村へ立ち寄り朝早く出立したので、昼前には峠に差し掛かっていた。街道を、3人並んで歩いて行く。
前方から大勢の喧噪のような騒ぎが聞こえてきたので、3人とも歩くスピードを速めて、声のする方へ急いでみた。すると1人の商人風の男が、盗賊10人に囲まれているではないか。思わずヒロとコージャは頭を抱え込んでしまう…盗賊が不憫に思えたからだ。案の定、アークがすらりと剣を抜き放ち2人へ声を掛けながら、盗賊目掛けて飛び出して行く。
「2人共、あいつらは俺に任せろ!」
 心なしか、アークは嬉々とした顔をしていた…。
「おおっ!何だ、お前は!?」
「ガキはすっ込んでな!!」
「問答無用!」
 盗賊達に応えながら、アークは一気に5人を斬り倒してしまった。剣の腕前のあまりの凄さに、盗賊達は圧倒されたようだ。
「こいつ、只のガキじゃねぇっっ!」
「傭兵か!!」
 レベルが違い過ぎる…。1分もしない内に、盗賊全部を片付けてしまった。勿論殺してはいない。役人へ突き出すので、全員みね打ちだ。
やれやれといった面持ちで、コージャが手持ちの紐で気絶している盗賊達を、次々と縛り上げていく。ヒロは蹲ったままの商人へ、優しく声を掛ける。
「もう大丈夫ですよ、怪我はないでしょうか?」
 漸く自身の無事が解って安心したのか、商人は安堵の吐息と共にヒロ達へ礼を言う。
「嗚呼、無事なのですね。助かりました、お助け頂いて有難う御座います。ところで、あなた方は一体…?」
「只の旅の者です」
 商人はヒロを無視し(黒いマントはインパクトがある筈なのに!)アークの腕を掴んで、一同に頼み込む。
「貴方…、貴方様は傭兵ですか?」
「ああ、そうだけど?」
「あなた方にお頼みしたい事があります。どうか私の町まで一緒に来て頂けないでしょうか?もう、あなた方にしか頼める方が居ないのです。お願いします!」
 手を固く握られ、何度も頭を下げる商人に困り果てたアークが、無言の視線でヒロに判断を委ねる。
「役人へこの人達をお願いしなければならないし、その後でも宜しいのでしたら…」
「本当ですか?!有難う御座います!」
 ヒロの返事に、今度はヒロに向かって、商人は何度も礼を言う。その様子を眺めながら、コージャはまた自分達が何かの事件に巻き込まれるような予感を、感じずにはいられなかった。



更新日:2010-10-29 07:00:00

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