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第3章:謎の美剣士、その名はアーク

 コージャの生まれ育った村を出発して、早くも10日目。目的地のカーレの都まであと僅か程の距離であるにも関わらず、依然として到着出来ないでいるのは、立ち寄る村々で小さな魔物退治を依頼されたり、村人に懇願されて足止めを食ったり、街道で盗賊に襲われて(勿論、余裕で撃退しているが)関所へ赴いたりと、予定外の寄り道をさせられているからだ。
魔物の出現が増え、旅人の数も減少していると言う…これこそが、世界に何かの異変が起こり始めている前触れに他ならないと、改めて実感させられた。
 太陽が真上に来た頃、街道は山頂付近へ差し掛かり、木々の間から眼下にカーレの都が広がっていた。コージャが足を止めて、ヒロを振り返る。
「ふぅ。ちょっと休憩して行こうぜ、ヒロ」
「うん。それにしても絶景だね、カーレの都は」
 眼下の景色に見惚れるヒロに、コージャが指差しながら説明をする。
「何せこの辺りじゃあ、一番大きな都だからな。真ん中に大きな城が見えるだろ?あれが、この地方の領主様:フィレ公爵の城だ。けど、俺も話にしか聞いた事がないけど、王都のシルバーブルクは、もっと大きくて立派な都だそうだぜ。カーレの都なんて、小さな地方都市なんだってさ」
「ふ~ん」
 素直に話を聞いているヒロに、コージャは前から気になっていた事を口にする。
「なぁヒロ、ちょっといいか?」
「何?」
「その…、俺思うんだけどさ、人前で自分の髪の色を気にしてるみたいだけど、髪の色より黒いマントの方が絶対目立ってると思うぜ」
「えっっ、何で?」
「お前…、精霊王から何も聞いてないのな。この世界じゃあ、黒いマントと言えば王都の魔導士って意味があるんだぜ」
 ヒロは思わず飲み掛けの水をブーッと吹き出して、咽てしまった。
「な…何だって?!」
 コージャはやれやれといった感じで、ため息を1つ吐いている。ヒロは心の中で、1人ごちた。
(ちょ…長老様、騙したな)
「やっぱ俺が一緒に着いて来て正解だったぜ。お前、ホント世間知らずだもんな」
「しようがないだろ。悪かったね、世間知らずで…って、あれ?」
 先程までの晴天が嘘のように曇り出し、おまけに辺り一帯見る間に深い霧に包まれる。山の天候は変わり易いとは言え、これは明らかに異常だ。
「「!!」」
 何かの気配に、周りをすっかり囲まれている。…その数、約20程か。深い霧に遮られ、周りの見通しが一切利かない。
すると霧の中から中年の男が、不意に2人へ大声で呼び掛けてくるではないか。
「フッ、貴様達が俺様を捕らえに来た刺客である事はお見通しだ!しかし、まだガキじゃないか、ビビって損したな。子供相手にこれだけの頭数を用意して大人げないが、悪く思うなよ。貴様達が刺客として追い掛けて来たのが悪いのだからな!!」
 2人は思わず顔を見合わせる、明らかに人違いだ。コージャが人違いである事の説明をしようとした途端、先に男が攻撃を仕掛けて来た。
「行け、トロール達よ!では、さらばだ」
「ちょ…ちょっと待てよ、おっさん!」
 コージャの声は届かず男の気配が消えて、代わりにトロールの群れが2人との距離をじりじりと詰めて来た。
 トロールとは、2足歩行のカバのような魔物で、性格は温厚で動きも遅く、おまけに頭も悪い。2~3頭なら、さほどの苦労もなく逃げる事が出来るだろうが、何せ今回2人は周りをすっかり囲まれていて、退路を断たれている。20頭全てを相手にしなければならない。
トロールは一度攻撃を受けると性格が一変して凶暴化し、群れの本能が強い為仲間が襲われた瞬間、集団で攻撃行動に入る。頭が悪い分、皮膚が分厚く、痛みに対する神経も鈍いので、一撃必殺で攻撃しなければ、逆に強大な怪力に襲われ、やがてスタミナ切れで人間の方が不利になるのである。
「おいおい…、これ全部トロールかよ」
「一撃で仕留めないと、逆にこっちが不利になるよ、コージャ」
「解ってるけど…」
 1匹目の攻撃を難なくかわすと、コージャは腰から短剣を抜き、ヒロの為に時間稼ぎをするのに、トロール達を牽制した。
「フレア・アロー!」
 コージャの目の前に居た3匹を炎の矢が貫き、あっと言う間に体だが燃やされて灰になった。
「アシッド・レイン!」
 続け様にヒロは、自分の背後に居たトロール5匹を、強力な酸性雨により、瞬く間に溶かしてしまった。これで残りは12匹だ。

更新日:2010-10-17 06:42:14

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