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第2章:旅のはじまり
コージャの村を出て、丸1日懸け森の中を歩いたヒロとコージャの2人は、漸く目指す隣村:レキへと辿り着いた。街道から村の明かりが疎らに見え出した時にはすっかり日は落ち、2人は足早で村の入口を目指した。
当初の予定では、昼過ぎには村へ到着する筈だったのだが、想定外のアクシデントに遭遇してしまったのだ。それも二度。
それは、早めの昼食を森で摂っていた時だった。この辺りの街道は、カーレ領・サウル地方でも田舎の地域だったから、元々街道を行き来する商人なども少ないとは言え、コージャの村を出て丸1日、全くと言っていい程誰にも会わない事に、【精霊の森】を出たばかりで世間知らずのヒロにもおかしいと感じたらしい。その事をコージャに訊くと、
「そう言やぁ、祖父ちゃんが“最近街道に山賊が出るらしい”とかって言ってたな」
「山賊?」
不思議そうに訊き返すヒロに、コージャは思わず目を剥いた。
「げっっ!ひょっとして、山賊も知らないとか言う?」
ヒロが大きく頷くので、コージャは深いため息を吐いた後、彼にレクチャーを始めるのだった。
「山賊って連中は街道荒らしで、盗賊だな。盗賊は解かるよな?」
「人の物を盗む、悪い人達だよね」
「そうそう。山に出る盗賊だから山賊。因みに、海を荒らす連中は海賊な」
「どうして人の物を盗んだりするんだい?」
「そりゃあ、手っ取り早くお金を稼げるからだろ。俺に訊くなよ」
「でも、人の物を盗むのは悪い事なんだよ。どうして誰も止めないの?」
彼のこの質問に、コージャはまたまた深いため息を吐いてしまう。
「誰も止めないんじゃなくて、止められないんだと思うぜ。盗賊なんて連中は、大抵札付きの悪ばかりだからな。役人の数も少ないし…」
「そうか。じゃあ、もし山賊に出会ったら、まず彼らを説得してみよう!」
「はぁ?!」
ヒロが真剣な面持ちで突拍子もない事を言い出すので、コージャは思わず奇声を上げてしまった。気を取り直すと、すぐにヒロへ説明を始める。
「おいおい、本気かよ?人の話を素直に聞くような奴なら、最初から盗賊になんてならないって」
「でも、元はいい人かも知れないし」
「無駄だと思うぜ」
ヒロとコージャは上着の裾を掃うと、ゆっくりと立ち上がった。いつの間にか、周りを囲まれていたからだ。下品な笑い声と共に木立の間から姿を現したのは、まるで登場のタイミングを計ったかのような山賊共だ。その数10人。
下っ端らしい男が、先頭の歪なモヒカン頭のぶ男に、声を掛ける。
「兄貴~。人の話し声が聞こえると思ったら、旅の魔導士ですぜ。どうしやす?」
「それよりおめぇら、よく見てみろ!ありゃあエルフじゃねぇのか!?こいつぁ運がいい、大陸に高く売れるぜ。おい、おめぇら!エルフには傷付けんじゃねぇぞ!」
「「「「「へい!」」」」」
山賊共の会話を耳にして、コージャが笑いを噛み殺しながらヒロに言う。
「いや~ん、助けて。魔導士様ぁ♡」
「―ねぇ、貴方達」
ヒロは真面目腐った顔で、モヒカン男に声を掛ける。
「これ以上罪を重ねるのは止めなさい。貴方達が心を入れ替え、真面目になると誓うのであれば、役人に減刑を申し出てあげましょう」
ヒロの台詞に、山賊一味は一瞬茫然となっていたが、互いに顔を見合すと一斉に高笑いを始めた。
「あ~はっはっはっは!こいつぁ愉快だ。聞いたか、野郎ども。王都の魔導士っていうのは、お人好しの馬鹿揃いみたいだぜ」
「で…でも兄貴、魔術が相手じゃ、分が悪いんじゃあ?」
「んなもん、呪文さえ喋れなけりゃあ、意味がねぇって!」
言うや否や、山賊のリーダーは背中から巨大な斧を取り出して、一気にヒロへ向かって走り寄った。ヒロが呪文を唱えるより先に、攻撃をしようと仕掛けたのだ。巨大な戦斧(せんぷ)が唸りを上げてヒロの頭へ打ち降ろされるが、彼は難なくその一撃を避けた。
何を隠そう、ヒロの得意技は早口言葉だった。だからモヒカン男が戦斧を振り上げようとした時には、ヒロの呪文は既に完成しており、胸前で印を組むと、力在る言葉を紡ぎ出す。
「ファイヤーボール!」
どちゅごご~んんっ!!
地響きと共に、山賊達が後方へ吹き飛ばされて行く。たとえ相手が悪人でも殺す訳にはいかないので、勿論ヒロは手加減をしていたが、山賊達に勝ち目がないのは、子供の目にも明らかだった。
当初の予定では、昼過ぎには村へ到着する筈だったのだが、想定外のアクシデントに遭遇してしまったのだ。それも二度。
それは、早めの昼食を森で摂っていた時だった。この辺りの街道は、カーレ領・サウル地方でも田舎の地域だったから、元々街道を行き来する商人なども少ないとは言え、コージャの村を出て丸1日、全くと言っていい程誰にも会わない事に、【精霊の森】を出たばかりで世間知らずのヒロにもおかしいと感じたらしい。その事をコージャに訊くと、
「そう言やぁ、祖父ちゃんが“最近街道に山賊が出るらしい”とかって言ってたな」
「山賊?」
不思議そうに訊き返すヒロに、コージャは思わず目を剥いた。
「げっっ!ひょっとして、山賊も知らないとか言う?」
ヒロが大きく頷くので、コージャは深いため息を吐いた後、彼にレクチャーを始めるのだった。
「山賊って連中は街道荒らしで、盗賊だな。盗賊は解かるよな?」
「人の物を盗む、悪い人達だよね」
「そうそう。山に出る盗賊だから山賊。因みに、海を荒らす連中は海賊な」
「どうして人の物を盗んだりするんだい?」
「そりゃあ、手っ取り早くお金を稼げるからだろ。俺に訊くなよ」
「でも、人の物を盗むのは悪い事なんだよ。どうして誰も止めないの?」
彼のこの質問に、コージャはまたまた深いため息を吐いてしまう。
「誰も止めないんじゃなくて、止められないんだと思うぜ。盗賊なんて連中は、大抵札付きの悪ばかりだからな。役人の数も少ないし…」
「そうか。じゃあ、もし山賊に出会ったら、まず彼らを説得してみよう!」
「はぁ?!」
ヒロが真剣な面持ちで突拍子もない事を言い出すので、コージャは思わず奇声を上げてしまった。気を取り直すと、すぐにヒロへ説明を始める。
「おいおい、本気かよ?人の話を素直に聞くような奴なら、最初から盗賊になんてならないって」
「でも、元はいい人かも知れないし」
「無駄だと思うぜ」
ヒロとコージャは上着の裾を掃うと、ゆっくりと立ち上がった。いつの間にか、周りを囲まれていたからだ。下品な笑い声と共に木立の間から姿を現したのは、まるで登場のタイミングを計ったかのような山賊共だ。その数10人。
下っ端らしい男が、先頭の歪なモヒカン頭のぶ男に、声を掛ける。
「兄貴~。人の話し声が聞こえると思ったら、旅の魔導士ですぜ。どうしやす?」
「それよりおめぇら、よく見てみろ!ありゃあエルフじゃねぇのか!?こいつぁ運がいい、大陸に高く売れるぜ。おい、おめぇら!エルフには傷付けんじゃねぇぞ!」
「「「「「へい!」」」」」
山賊共の会話を耳にして、コージャが笑いを噛み殺しながらヒロに言う。
「いや~ん、助けて。魔導士様ぁ♡」
「―ねぇ、貴方達」
ヒロは真面目腐った顔で、モヒカン男に声を掛ける。
「これ以上罪を重ねるのは止めなさい。貴方達が心を入れ替え、真面目になると誓うのであれば、役人に減刑を申し出てあげましょう」
ヒロの台詞に、山賊一味は一瞬茫然となっていたが、互いに顔を見合すと一斉に高笑いを始めた。
「あ~はっはっはっは!こいつぁ愉快だ。聞いたか、野郎ども。王都の魔導士っていうのは、お人好しの馬鹿揃いみたいだぜ」
「で…でも兄貴、魔術が相手じゃ、分が悪いんじゃあ?」
「んなもん、呪文さえ喋れなけりゃあ、意味がねぇって!」
言うや否や、山賊のリーダーは背中から巨大な斧を取り出して、一気にヒロへ向かって走り寄った。ヒロが呪文を唱えるより先に、攻撃をしようと仕掛けたのだ。巨大な戦斧(せんぷ)が唸りを上げてヒロの頭へ打ち降ろされるが、彼は難なくその一撃を避けた。
何を隠そう、ヒロの得意技は早口言葉だった。だからモヒカン男が戦斧を振り上げようとした時には、ヒロの呪文は既に完成しており、胸前で印を組むと、力在る言葉を紡ぎ出す。
「ファイヤーボール!」
どちゅごご~んんっ!!
地響きと共に、山賊達が後方へ吹き飛ばされて行く。たとえ相手が悪人でも殺す訳にはいかないので、勿論ヒロは手加減をしていたが、山賊達に勝ち目がないのは、子供の目にも明らかだった。
更新日:2010-10-11 07:11:21