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第8章:再会“トルベニア”

 月がまだ中空にある内にシルバーブルクを出発したヒロ達一行は、闇夜に紛れて夜の街道を一路西へ…、堅剛な関所の都・ガトー伯爵の領地トルベニアへと歩いていた。幸いな事に、今のところ誰にも会う事なく道を進んでいるが…。
ヒロは逸る気持ちを抑えながら、シスター・キャロルが乗る驢馬の手綱を引き、先頭を行くアークに声を掛ける。
「ねぇアーク、ちょっといいかい?」
「何だ、ヒロ?」
「王都のすぐ隣りに在る都だって聞いたけど、どれくらいでトルベニアに着くのかな?」
「このペースなら、夜の間休み無しで歩いて、丸3日ってところだな」
「おいおい…、休み無しで行く気かよ?」
 ヒロの前で苦言を洩らすのはコージャだ。そんな彼らに、アークは当然だとばかりに言う。
「しようがないだろう。今回、俺達は誰にも見つからずに、アクレイトスへ入らないと駄目なんだぞ。トルベニアを過ぎるまでは、早いに越した事はない」
「そうは言ってもよぉ、ミユキだって疲れるだろうしさ」
 コージャの台詞にアークは眉根を寄せて、思いっきり不機嫌な顔でミユキを振り返った。アークの視線を受けて、彼女は憮然と反撃に出る。
「ちょっとちょっと、何よ!あんたのその顔は?!文句があるなら言いなさいよ!」
「フン、これだから女連れの旅は…」
 いつもの調子で一言呟き…、アークはしまった!という顔をして、傍らの馬上のキャロルを仰ぎ見たが、時既に遅し、後の祭りだった。シスター・キャロルは笑顔のまま穏やかに、しかし怒りのオーラを全身に纏いながら、アークに訊く。
「女連れの旅で悪かったわね、アーク?」
「えっっ!いや、違うんだ。今のは君の事ではなくて―」
「あら?私じゃなければミユキさんに言ったのかしら?」
「………」
 思わず黙り込んでしまったアークに、キャロルは追い討ちを掛けるように訊ねる。
「アーク。いつもミユキさんに対して、こんな失礼な態度をとっているんじゃ…?」
 そこへ、待ってましたとばかりに、ミユキが会話に割って入る。
「そうなんですよ、キャロルさん!いつもいつも、あたしに酷い事ばかり言うんです!」
「なっっ!馬鹿、止せ!」
「アーク…」
 シスター・キャロルは口調は変わらずに、けれど迫力のある引き攣った笑顔をアークへ向けると、あの高飛車な彼が嘘のように大人しくなるではないか!?
これにはヒロ達3人も吃驚だった。
「アーク。レディに対して無礼な態度は、私が許しませんよ」
「レ…レディって、あれのどこがレディなんだよ?」
「なっっ、失礼ね!」
 指差すアークに、ミユキは目を見開き言い返した。その様子を馬上から見つめて、シスター・キャロルは冷然と告げる。
「アーク、ボーナス分の査定から料金を引きます」
「ちょっと待った、キャロル!」
「問答無用ですわ。今回、貴方の依頼人は私で、私が貴方に依頼料を支払うんですから。今後、もしミユキさんに失礼な態度をとったら、依頼料からどんどん査定を引きますから、そのつもりで」
「う…」
「宜しくて?」
「……はい」
 小さく頷く彼に、キャロルはにっこりと微笑んだ。
「解ってくれて嬉しいわ、アーク」
 アークとミユキにとびっきりの笑顔を浮かべるシスター・キャロルを見ながら、思わずコージャはヒロに呟いていた。
「キャロルさんって美人だけど、ミユキに性格似てるよな」
「…うん、そうだね」

 森の中の小道をそれから暫く進んだ辺りで、一行は1回目の休憩を摂る事にした。アークはこの辺りの地理にも詳しく、道を外れて進んだ所の小川へ出たのだ。
驢馬から鞍を外してやり小川の冷たい水をたっぷりと与えると、驢馬も一心地ついたようだった。ヒロとコージャは芝草に直接寝転んで、木々の間から見える星空を眺めている。ミユキとキャロルは先程の一件ですっかり打ち解けたのか、仲良くお喋りをしながら小川の横の岩に腰掛けていた。
アークは抜かりなく辺りの様子を探っていたが、異常無しと判断したのか、驢馬の近くで水筒の水を新しく交換している。辺りが静かな為、彼女達2人の会話が、アークの耳にも入ってくる。
「ミユキさん、足は痛くない?」
「大丈夫。あたし、こう見えても結構健脚だから」
「それでも心配だわ。…そうだわ、こうしましょう!休憩毎に驢馬へ乗る順番を交代するの。それならお互い休めるし、歩くスピードが変わらないから、アークも文句を言わないわ」
「誰が文句を言わないだって?」

更新日:2011-05-12 22:08:15

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