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第7章:陰謀の影
ヒロ達一行が王都に滞在して、ひと月あまり。
朝から夕方までの魔法省詣でが、ヒロの日課となっていた。午前中は3賢者…即ち、魔法省長官イワノフと、ワーレス神官長とヨーク導師に、ヒロの知ってる魔術のレクチャーをして、午後は魔導士見習い達に魔術の指導を行っているのである。
慣れるまでの暫くの間はアークに付き添って貰っていたが、2週間も過ぎるとヒロとコージャだけで魔法省へ来る事が多くなっていた。一体何処で何をしているのやら、アークはヒロが城内の地理をすっかり把握すると、殆ど付き添いもせずに、時には1日中姿を見ない日も多々あった。それとなくルルーにアークの居所を訊いてみるのだが、
「お勤めに出られていますわ」と、笑顔ではぐらかされてしまうのであった。
ミユキに至っては、すっかりルルーと行動を共にする事が多くなっていた。それと言うのも、何度かコージャと共に王立図書館へ足を運んでみたものの、この世界の文字が予想通り理解出来ず、最初の内はヒロの実習訓練の見学も楽しくはあったが、今ではすっかり飽きてしまって、城へ行く事も少なくなっている。暇な時間は都探索に出掛けていたので、王都の地理は全部網羅したと自負していた。
洗濯物を干しているルルーの横で、手伝いながらミユキが訊く。
「ねぇ、ルルー。あたし、このお屋敷に来てから一度もアークのお父さんに会った事ないけど、あたし達が居るせいでお屋敷に戻って来ないの?」
「そうでは御座いません。今月は城詰めの当番なんですよ、ですからお屋敷へは余程の事がない限りは戻られないんです」
「ふ~ん、お城勤めも大変なのね」
アークはこの日も朝から屋敷に居なかったのだが、また雇い主の所へ行ったのだろうと、ミユキは大して気にしないでいた。
彼女の考えは、必ずしも的外れではなかった。アークは姫様に呼ばれて城に居たからだ。いつものように慣れた足取りで西の塔へと、中庭を抜けて行く。
今の季節、中庭には紫の綺麗な花が、まるで競い合うようにして咲いている。そんな花を横目で愛でつつ、アークは回廊を歩いて行った。
回廊を過ぎて廊下の端を曲がった所で、姫様付きの侍女に出くわした。彼女は普段から落ち着き払っていて、他の侍女から“鉄仮面”と仇名を付けられているのだが、そんな彼女が珍しく慌てているようなので、ついついアークは声を掛けてしまう。
「どうした?」
「アーク様!お捜ししておりました。お早く姫様の元へおいで下さいませ」
「姫は、今どちらに?」
「執務の間で御座います。それでは、私はここで…」
それだけ告げると、彼女は今来たのとは逆の方向へ行ってしまった。姫様が人払いをしていたからだ。アークは廊下を早歩きしながら考える。
(何だ、何か遭ったのか?)
執務の間の前の大扉をノックすると、すぐに中から声が掛かった。赤騎士の声だ。
「入られよ」
(また父上が居るのか…)
「失礼致します。銀騎士、只今到着致しました」
伏せた面を上げ姫様の顔を見て、アークは驚きの色を隠せなかった。いつも穏やかな姫様がすっかり落ち着きを失くして、蒼白な顔になっている。彼女はアークと目が合うなり、泣き出してしまいそうな表情に変わっていく。
「姫!どうされたのです?」
「アーク、由々しき事態になってしまいました。今朝、都の漁師から知らせがありました。大河・ニーで、キリア議員の遺体が発見されました」
「!」
目を見開いたアークに、赤騎士が補足する。
「…傷は背中からの槍の一突き、恐らく即死でしょうな。水を殆ど飲んでいないようですからな。問題はキリア議員の胸に、王旗と同じ紋章が烙印されていた事だ。一ヶ月前の会談を覚えておるかな、銀騎士よ?」
「まさか…!赤騎士殿はトルベニアの手の者が、キリア議員を殺害したとお考えなのですか?」
「そのように考えるのが妥当であろう?シルバーブルクとアクレイトスが同盟を結んで、一番立場が悪くなるのは、トルベニアのガトー様だからな」
朝から夕方までの魔法省詣でが、ヒロの日課となっていた。午前中は3賢者…即ち、魔法省長官イワノフと、ワーレス神官長とヨーク導師に、ヒロの知ってる魔術のレクチャーをして、午後は魔導士見習い達に魔術の指導を行っているのである。
慣れるまでの暫くの間はアークに付き添って貰っていたが、2週間も過ぎるとヒロとコージャだけで魔法省へ来る事が多くなっていた。一体何処で何をしているのやら、アークはヒロが城内の地理をすっかり把握すると、殆ど付き添いもせずに、時には1日中姿を見ない日も多々あった。それとなくルルーにアークの居所を訊いてみるのだが、
「お勤めに出られていますわ」と、笑顔ではぐらかされてしまうのであった。
ミユキに至っては、すっかりルルーと行動を共にする事が多くなっていた。それと言うのも、何度かコージャと共に王立図書館へ足を運んでみたものの、この世界の文字が予想通り理解出来ず、最初の内はヒロの実習訓練の見学も楽しくはあったが、今ではすっかり飽きてしまって、城へ行く事も少なくなっている。暇な時間は都探索に出掛けていたので、王都の地理は全部網羅したと自負していた。
洗濯物を干しているルルーの横で、手伝いながらミユキが訊く。
「ねぇ、ルルー。あたし、このお屋敷に来てから一度もアークのお父さんに会った事ないけど、あたし達が居るせいでお屋敷に戻って来ないの?」
「そうでは御座いません。今月は城詰めの当番なんですよ、ですからお屋敷へは余程の事がない限りは戻られないんです」
「ふ~ん、お城勤めも大変なのね」
アークはこの日も朝から屋敷に居なかったのだが、また雇い主の所へ行ったのだろうと、ミユキは大して気にしないでいた。
彼女の考えは、必ずしも的外れではなかった。アークは姫様に呼ばれて城に居たからだ。いつものように慣れた足取りで西の塔へと、中庭を抜けて行く。
今の季節、中庭には紫の綺麗な花が、まるで競い合うようにして咲いている。そんな花を横目で愛でつつ、アークは回廊を歩いて行った。
回廊を過ぎて廊下の端を曲がった所で、姫様付きの侍女に出くわした。彼女は普段から落ち着き払っていて、他の侍女から“鉄仮面”と仇名を付けられているのだが、そんな彼女が珍しく慌てているようなので、ついついアークは声を掛けてしまう。
「どうした?」
「アーク様!お捜ししておりました。お早く姫様の元へおいで下さいませ」
「姫は、今どちらに?」
「執務の間で御座います。それでは、私はここで…」
それだけ告げると、彼女は今来たのとは逆の方向へ行ってしまった。姫様が人払いをしていたからだ。アークは廊下を早歩きしながら考える。
(何だ、何か遭ったのか?)
執務の間の前の大扉をノックすると、すぐに中から声が掛かった。赤騎士の声だ。
「入られよ」
(また父上が居るのか…)
「失礼致します。銀騎士、只今到着致しました」
伏せた面を上げ姫様の顔を見て、アークは驚きの色を隠せなかった。いつも穏やかな姫様がすっかり落ち着きを失くして、蒼白な顔になっている。彼女はアークと目が合うなり、泣き出してしまいそうな表情に変わっていく。
「姫!どうされたのです?」
「アーク、由々しき事態になってしまいました。今朝、都の漁師から知らせがありました。大河・ニーで、キリア議員の遺体が発見されました」
「!」
目を見開いたアークに、赤騎士が補足する。
「…傷は背中からの槍の一突き、恐らく即死でしょうな。水を殆ど飲んでいないようですからな。問題はキリア議員の胸に、王旗と同じ紋章が烙印されていた事だ。一ヶ月前の会談を覚えておるかな、銀騎士よ?」
「まさか…!赤騎士殿はトルベニアの手の者が、キリア議員を殺害したとお考えなのですか?」
「そのように考えるのが妥当であろう?シルバーブルクとアクレイトスが同盟を結んで、一番立場が悪くなるのは、トルベニアのガトー様だからな」
更新日:2011-02-27 09:45:32