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第6章:王都・シルバーブルク

 幌の付いた馬車に揺られて、早半日。フィレ公爵の号令の下、お昼休憩を摂ってから大した時間は経っていなかったが、普段乗った事など一度もない馬車に乗せられたミユキは、振動と台車の音に少々辟易していた。
ふと他の3人を見てみると、こんなに揺れているにも関わらず、アークは剣を立て掛けて、それに凭れるようにしながら器用に寝ているのを見ると、何だか無性に腹が立ってきた。ヒロとコージャもあまり喋ると舌を噛むので、殆ど会話を交わさない。
 こちらの世界の時間の感覚にまだ慣れていないせいもあるが、ミユキは退屈でしようがなかった。それに、何もしないでいると、馬車に酔いそうになるのだ。
「ねぇコージャ、王都って所にはまだ着きそうにないのかな?」
「ん?そうだな。さっきフィレ様が昼過ぎには到着予定だって言ってたから、そろそろ着くんじゃないか」
 コージャの声が聞こえたのだろう。馬車の従者が、幌の中の一行に声を掛けてくれる。
「皆さん、前方に王都への関所が見えて来ましたよ。あの壁の向こうが、王都・シルバーブルクです」
 従者の言葉に、ミユキとコージャそれにヒロまでもが、前に出て前方を仰ぎ見る。木立の向こうに山のように聳え立つ、白い土壁が見えた。あの壁の向こう側が世界の中心地・王都シルバーブルクかと思うと、感動も一入(ひとしお)だった。
ここまで来るのに、随分と長い道程だったように思う。何も言わなくても、ヒロもコージャも胸の中に熱いものが、自然と込み上げてきた。
「俺達…、とうとうここまで来たんだな」
「…そうだね」
 やがて馬車は関所へ到着するが、カーレ騎士団が所有する馬車であった為、特に関所で身元の確認をするでもなく、馬車は関所を通過する際に少しスピードを落とす程度で、そのまま関所を越えて行った。
 関所を抜けて壁を潜ると、景色が一変した。今居る辺りは都の外れになるので、建物は少なかったが、少し高台になっている為、ここから都を一望する事が出来た。見渡す限りの大小様々な建物の中心に、一際大きく目を引く白亜の城が聳え建っていた。このレネミー大陸を統べる、シルバーブルク王家の城だ。正に、ここが世界の中心なのである。
 ヒロは初めてカーレを訪れた際にも大きな都で驚いたのだが、ここは街の規模がカーレの数倍…否、それ以上の大都市だった。世間知らずのヒロが驚くのは至極当然ではあるが、王都の豪華絢爛な街並みに、コージャも驚きを隠せない。ミユキに至っては異世界から来たので、大きな街並みを見るのも初めてであったが、彼女が夢にまでみたRPGの物語の世界が、そこには広がっていた。
「皆さん、王都へ来られるのは初めてですか?」
 馬車の従者が、穏やかに語り掛けてくる。3人は感動のあまりろくに返事も出来ずに、ただ頷くばかりだ。
「それでしたら、驚かれたでしょう?私も初めて訪れた時はそうでした。カーレも大きな都ですが、こことは比較にもなりません。正に世界の中心!王のおわす都なのです。いつ来ても感動致しますよ、ここからの眺めは」
 セントの様子を見知っているカーレの兵士達にとって、この壮大な都の景観はさぞや心の支えとなっているのだろう。従者も感動しているのだ。
それにしても、王都の何と治安のいい事か。この辺りはまだ都の郊外なのに、旅人向けの商店がちらほらとあり、行商達も数多く見受けられるのだが、盗賊に襲われる心配がないのか、みんな一様にのんびりとしていた。ヒロがその事を、従者に訊いてみる。
「この辺りでは、盗賊などは出ないのですか?」
「ええ。関所の壁より内側は、実に安全なものですよ。関所で入国審査が、厳しくされていますからね。犯罪者の王都への侵入は、難しいでしょう。…実際、都へ着いたら解かると思いますが、カーレなどの地方都市とは違い、王都は都全体が要塞都市となっているのですよ」
「そりゃあ、すげぇ…」
 従者の説明に、コージャが感嘆の声を出した。
そんな会話を交わす内に、景色はみるみる変わっていく。山の地道から、煉瓦が敷かれた舗装道路へと街道が変化するにつれ、人家が目立ってくる。いよいよ都の入口に来たのだ。
 道が綺麗になったので、馬車の揺れも少なくなってきた。ここに来てアークは漸く目を覚ますと、1つ大きく伸びをして従者へ声を掛ける。
「んーっっ…やっと着いたか。この馬車は何処まで行くんだ?」
「アーク様のご希望通りにと、閣下より言い遣っております。どうされますか?」

更新日:2011-01-27 09:03:20

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