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 増井和美は、頬杖をついたままで、視線を隣の席へ向けた。
 そこには、あからさまに肩を落とした男子生徒が椅子に座っている。
 彼が教室に入ってきたのは、一限目が始まる直前だった。時間にだけはきちんとしている彼らしくなかったが、その表情は酷く憔悴していて、声をかけるのが躊躇われたのだった。
 しかし、もう二限目が終わったというのに、彼は少しも回復した様子がない。放っておくのも気がひける。
「ねぇ、今日はどうしたの、黒田」
 呼びかけられて、ゆるゆると彼は顔を上げた。
「……関わらない方がいい、増井。今日の俺は、酷く不幸だ。お前にまでこの不幸が及ぶのは忍びない」
「いやそんなの言ってくれなきゃ判んないし」
 二人は、席が隣だということもあって、よく他愛のない話をしあう仲だった。それでも、彼女の友達思いなところと、さっぱりした性格は黒田もよく知っている。僅かに力ない苦笑を浮かべて、彼は口を開いた。

更新日:2008-12-21 21:05:35

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