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送還隊は、地上……もとい人間界の魂を地獄に送る重要なポジションにある部隊だ。それ故、厳重な審査によって選ばれた優秀な悪魔のみで編成されている。しかし完璧な人間がいないように完璧な悪魔も存在はしない。
それでも千年に一度ほどの確率で、微々たる失敗をする程度だ。わざわざバルフレアに報告するほどの問題など今までになかったはず。こんな事は地獄界歴史上初だ。
「それは……本当なのか?」
「……はっ。手違いを起こした悪魔から、直接報告されています。……どう処罰いたしましょうか?」
「罰など後回しだ! 今すぐ詳しい内容を説明しろ!」
その悪魔からよれば、手違いと言うのは転送場所を間違えたという事らしい。送還隊としてありえない失態だが、そんな事は言っていられない。
しばらくスカルの話に耳を傾けていると、ありえない単語が聞こえてきた。
「馬鹿な…………封印の間だと!!?」
「っ……はい、その悪魔が転送した人間は、今、封印の間にいます」
膝をつきながら重々しく告げるスカル。彼も事の重大さは分かっているのだろう。体も小刻みに震え、声音からも焦りが感じ取れる。
封印の間。それは魔王の全てが宿る絶対不可侵領域。
魔王、その名を聞いただけで誰もが恐れおののく最強の覇者。その力はあまりに巨大で、今から一万年程前に魔王自ら自分の力を二つに分けたという。
その片割れこそが、封印の間に厳重に保管されている『アルテスの玉』。
魔王とは一心同体、片方が消えればもう片方も消える。
いわば『アルテスの玉』は魔王の心臓、魔王そのものと言っても過言ではない。
その近くに、何も知らない人間がいる。それはもう、地獄の命運を握っているようなもの。
「魔王様の元へ向かう!」
「しかし! 魔王様は今五千年に一度の眠りにつかれていらっしゃる! 封印の間に繋がる玉座には防壁が張られているかと!」
(それなら転送術を使える送還隊の元へ行けば……いやダメだ。あの術は極力魔力が殆どない者にしか使えん。……ならばやるべき事は一つしかないな)
「そんなもの私の魔力でどうとでもなる! なによりも魔王様の御身優先だ!」
玉座の間へ着き、バルフレアは扉に向かって両手を突き出した。
「ぐぅ!!」
膨大な防壁の魔力がバルフレアに焼き尽くすような激痛を感じさせる。それもそのはず、防壁は魔王の魔力の一部によって作られたのだから。その防御力は、悪魔数千体の防壁にもおよぶ。
「ぐっ……があぁぁぁぁ!!」
「バルフレア様!!」
バルフレアは全身全霊の魔力を両手に注ぎ込んだ。
本当なら他の悪魔に知らせ、協力すべきはずだが、バルフレアはそれをしなかった。勿論
スカルも。
他にこの事を知っているのは人間を転送した悪魔と、一部の送還隊隊員のみ。
何故バルフレア達はこの歴史に語り継がれるほどの大事件を知らせないのか。それは簡単な事。
こんな事を知らせれば、地獄は大混乱と化してしまうからだ。
全ての悪魔達は、魔王様こそが全て、魔王様こそが秩序であると従順に掲げている。それこそが悪魔の意思であり、本質だ。
そんな悪魔達に、魔王の命の危機など知らせれば、暴走し、地獄そのものが滅びかねない。 そしてたとえこの場に全ての悪魔が集まった所で、その時はもう手遅れだ。
スカルもそれを察してバルフレアにだけ報告をしたと考え、バルフレアはひそかに自分の部下の優秀さに感心していた。
「はあぁぁぁぁぁ!!」
バギィン!
扉の防壁が壊れる音が聞こえた瞬間、バルフレアは魔力の大量放出によって限界の身体を無理矢理引きずり、眠りに入っている魔王の横を抜け、封印の間へ赴く。
「魔王様待っていて下さい、必ずお助け致します」
その後をついていったスカルは、寝ている魔王をみて、小さく呟いた。
しかし、既に手遅れだった。
バルフレア達が封印の間に着き目にしたのは、人間がアルテスの玉に触れている光景だった。
それでも千年に一度ほどの確率で、微々たる失敗をする程度だ。わざわざバルフレアに報告するほどの問題など今までになかったはず。こんな事は地獄界歴史上初だ。
「それは……本当なのか?」
「……はっ。手違いを起こした悪魔から、直接報告されています。……どう処罰いたしましょうか?」
「罰など後回しだ! 今すぐ詳しい内容を説明しろ!」
その悪魔からよれば、手違いと言うのは転送場所を間違えたという事らしい。送還隊としてありえない失態だが、そんな事は言っていられない。
しばらくスカルの話に耳を傾けていると、ありえない単語が聞こえてきた。
「馬鹿な…………封印の間だと!!?」
「っ……はい、その悪魔が転送した人間は、今、封印の間にいます」
膝をつきながら重々しく告げるスカル。彼も事の重大さは分かっているのだろう。体も小刻みに震え、声音からも焦りが感じ取れる。
封印の間。それは魔王の全てが宿る絶対不可侵領域。
魔王、その名を聞いただけで誰もが恐れおののく最強の覇者。その力はあまりに巨大で、今から一万年程前に魔王自ら自分の力を二つに分けたという。
その片割れこそが、封印の間に厳重に保管されている『アルテスの玉』。
魔王とは一心同体、片方が消えればもう片方も消える。
いわば『アルテスの玉』は魔王の心臓、魔王そのものと言っても過言ではない。
その近くに、何も知らない人間がいる。それはもう、地獄の命運を握っているようなもの。
「魔王様の元へ向かう!」
「しかし! 魔王様は今五千年に一度の眠りにつかれていらっしゃる! 封印の間に繋がる玉座には防壁が張られているかと!」
(それなら転送術を使える送還隊の元へ行けば……いやダメだ。あの術は極力魔力が殆どない者にしか使えん。……ならばやるべき事は一つしかないな)
「そんなもの私の魔力でどうとでもなる! なによりも魔王様の御身優先だ!」
玉座の間へ着き、バルフレアは扉に向かって両手を突き出した。
「ぐぅ!!」
膨大な防壁の魔力がバルフレアに焼き尽くすような激痛を感じさせる。それもそのはず、防壁は魔王の魔力の一部によって作られたのだから。その防御力は、悪魔数千体の防壁にもおよぶ。
「ぐっ……があぁぁぁぁ!!」
「バルフレア様!!」
バルフレアは全身全霊の魔力を両手に注ぎ込んだ。
本当なら他の悪魔に知らせ、協力すべきはずだが、バルフレアはそれをしなかった。勿論
スカルも。
他にこの事を知っているのは人間を転送した悪魔と、一部の送還隊隊員のみ。
何故バルフレア達はこの歴史に語り継がれるほどの大事件を知らせないのか。それは簡単な事。
こんな事を知らせれば、地獄は大混乱と化してしまうからだ。
全ての悪魔達は、魔王様こそが全て、魔王様こそが秩序であると従順に掲げている。それこそが悪魔の意思であり、本質だ。
そんな悪魔達に、魔王の命の危機など知らせれば、暴走し、地獄そのものが滅びかねない。 そしてたとえこの場に全ての悪魔が集まった所で、その時はもう手遅れだ。
スカルもそれを察してバルフレアにだけ報告をしたと考え、バルフレアはひそかに自分の部下の優秀さに感心していた。
「はあぁぁぁぁぁ!!」
バギィン!
扉の防壁が壊れる音が聞こえた瞬間、バルフレアは魔力の大量放出によって限界の身体を無理矢理引きずり、眠りに入っている魔王の横を抜け、封印の間へ赴く。
「魔王様待っていて下さい、必ずお助け致します」
その後をついていったスカルは、寝ている魔王をみて、小さく呟いた。
しかし、既に手遅れだった。
バルフレア達が封印の間に着き目にしたのは、人間がアルテスの玉に触れている光景だった。
更新日:2010-09-08 08:54:52