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AtoZ

気になる男の人は今までもたくさんいたけど
一目ぼれは一度しかない

何が起きたのかわからなかった

その彼のしゃがんだ後姿
持ち上がった足首
ごつくて丸っこい大きなくるぶし

目が釘付けになった

「あぁ。寝てみたいな」

これが、初めての感想
驚いた、ものすごく驚いた
自分にびっくりした

なんで、いきなり「寝てみたい」なのだろうか??
欲求不満か?自分??

一人で焦る夕飯時

自分の中で意識せずに
性を意識したのは、後にも先にも彼一人

それでも、告げられない自分の想い
仲のよい友人のつもり
彼の後ろの缶ビールを取ろうと手を伸ばしたときに
腕をつかまれた

もう一人の自分とめぐり合ったのではないかと思った
かっこつけたり我慢したりそんなことが何にもならない
と教えられ、とても自由な思いがした
何もかもが同じだと思った
一人の人間が二人に分けられたと思った

彼の全てがわかっているような気がした
たった、数時間で全てになった



彼とは電話でやり取りするしかなかったけど
左耳からながれてくる彼の声が大好きだった
掠れた声、低すぎはしないけれど、
十分浸透するくらいの低音

受話器を下ろそうとすると、子供のように駄々をこねる彼

深夜1時が二人の時間
遭うことはほとんど無かったけど、
彼のことはなんでも知っていた

一人じゃいられない彼
甘えん坊の彼

ずっと寂しかった彼
いい大人になれば、それなりに妥協もしていくのだけど
そんな環境になじめずに、いつも寂しかった彼

たくさん与えることが出来るのに、与えられた愛では足りなくて・・・

一緒にいられなくても、色んなモノをとおして
その存在を知らせてくれた
風や、雲や雨・・・・
空でつながっていると思っていた
北の大地に向かう風と南へ降りてくる風にのってあっていると思っていた

とんでもないくらい馬鹿モノで
何一つ怖いものを知らなくて
無茶ばっかりして、
喧嘩っ早くて、
たくさんの友達がいて
いつも笑顔で廻りに愛されて

それでも、寂しかった彼

寂しさになれずに毎晩眠るまで受話器を放せなかった彼

小さなオレンジ色の蛇と小さな亀がお気に入り
爬虫類の冷たさを自分の肌で暖めるのが好きだった

その手でいつも愛してくれた彼
左耳のささやき声だけで満足させてくれた彼

どうしようもない馬鹿二人

他人をだましまくっても、笑って赤目を向いて
幸せにいられたのかな
もし二人でいることが出来たら・・・

布団に包まっているところしか想像できない
働く二人なんて想像できない
全てはただの妄想
彼は北へ    わたしは南へ

彼だけが、電話でわたしの名前を呼ぶ
もう久しく呼ばれたことの無い自分の名前
「※※子」
自分を確認できる
ずっとずっと甘えん坊だったのに、手放してごめんね

かっこつけたって始まらないって教えてくれたのに・・・

手を離してしまった

彼の落胆 孤独  あきらめ

最後の綱だった二人の受話器
知らない振りしてでなかった電話
だって、眠かった
朝早いんだもの

彼の声を何年聞いてないのだろう

「なんもだぁ  ※※子、 大丈夫だ 愛してるよ 」
毎晩言われた魔法の呪文

ごめんね

手を離してごめんね

あんたの最後の女があたしで、
あたしの最初の男があんた

もう離れないですみそうだよ
ずっといてくれたんだね

更新日:2010-08-31 00:29:05

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