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 重たい沈黙が漂う中、純也は自分の端末に表示された文字を目で追った。

 ――第三ゲーム ロール――

 遂に始まってしまった。

「ロール……巻く? どういう意味だろう?」

「いや、恐らく役職という意味の方だろうね。ほら、ゲームとかでもあるだろう? ロールプレイングゲームといったかな」

 留美の解説に純也は納得したように何度も頷いた。

「ああ、なるほど。つまり俺たちには何らかの役が与えられて、それを満たせばいいってことですね」

「まあ、詳しくは分からないけれどね。とりあえず、続きを見てみようじゃないか」

 留美に言われるまま、純也はゲームの詳細を開いた。

「あれ?」

 純也は表示された画面を見て、首を傾げた。
 同じく端末を操作して内容を確認していた伊月も訝しげに眉をひそめている。

「何も書かれて、ない?」

 困惑気味に声を発したのは、目を覚ました美耶子だった。美耶子もまた自分の端末を見て硬直している。そして周りの反応を見るに、それは純也や美耶子だけではないようだった。
 新たなゲーム、ロール。そのルールの項目には『NO DATE』という言葉が表示されるのみで、ゲームをクリアーするには何をすればいいのか、そもそもどんなゲームなのかが一切書かれていなかったのだ。

「どういうことだ?」

「分かりません。でもこれじゃあゲームとして破綻する……」

 純也のところへ歩み寄ってきた伊月に対して、純也は力なく首を振った。
 ゲームには必ずルールがある。守るべき規則、そして勝利条件や敗北条件が決められているからこそ、ゲームを楽しむことが出来るのだ。逆に言えば、ルールが存在しないということはゲームとして成立しないということでもある。

「きっと主催者側から何かアクションが――」

『お困りのようですね?』

 突然会話の中に割り込んでくる機械合成された無機質な声。それはフラッグの試験場で嘘のルールを教えた妖精の声と同じものだった。
 部屋の中にいた全員が突然の声に肩をビクつかせ、辺りを見回す。
 部屋の隅、天井付近にスピーカーがあった。音声はそこから流れているようだった。

『怖がらないでください。私は貴方を導く妖精です』

「また、妖精か」

 苦々しく純也が吐き捨てる。
 思えばロジックキューブのときから常にその名前が出ていた。そしていつも純也たちを惑わすのだ。
 第三ゲームを導くというこの妖精も、果たして信用出来るかどうか。

『貴方は今、とある王国にいます。その国は王の圧政によりとても苦しんでいます。それだけでなく、王子の残虐非道な行為もあり、王国の治世は乱れに乱れています』

 声は扉の外からも聞こえてきた。恐らく各地にスピーカーが設置されており、このフロアーのどこにいても聞こえるようになっているのだろう。

『妖精は人間が大嫌いなんです。多くの仲間が人間に殺されましたからね。ですが、悪い人間ばかりではないことを私は知っています。捕らえられた私を助けてくれた人間がいるのです。だから私は良い人間の味方です』

「何の話をしているんだろう?」

「妖精さんの身の上話じゃないですか?」

 美里の言葉に、しかし純也は納得がいかない。
 この妖精は何を言おうとしているのか。

『そしてそんな良い人間であるあなたをお助けしたくて、私は妖精の国から出てきました。私と共に暴君である王を倒し、この国を救いましょう。そして今度こそ妖精と人間の争いのない国を作るのです』

 そこでスピーカーの声は一拍置き、

『さぁ、覚悟は出来ましたか? 今から私が三十分だけ門を開けます。その間に王国へとお入りください。それ以上は王の手の者に見つかる恐れがあります。三十分。それまでに王国へとお入りください。それではまた後程お会いしましょう』

 それっきりスピーカーから妖精の声が発せられることはなかった。
 純也は顎に手を当てて、今の妖精の言葉を反芻していた。
 次のゲーム、ロールは王国と呼ばれる部屋で行われること。
 そしてそこへ入るための鍵を解除したので、プレイヤーはゲームを受ける準備を整えたら三十分以内に王国へと入ること。
 妖精の言葉から察することが出来たのはそれだけだった。
 いまだにゲームの全貌は見えてこない。もしかしたら王国と呼ばれる場所でルール説明を受けるのかもしれない。

「どうしますか?」

「……とりあえず妖精の言葉に従おう。何をすればいいのか分からないままというのは危険だ」

 純也の言葉に全員が頷きを返す。
 まずはゲームの内容を知ることだ。そのためには王国を目指さなければならない。

「行こう」

 純也は扉に手をかけると、勢いよく開け放った。

更新日:2012-10-22 18:40:16

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