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 試験場を抜けた先には階段があり、そこを登ると初めて全員と出会った広場のようなところに出た。
 試験をクリアーした純也たちはその広場で座り込み、項垂れていた。
 先に試験をクリアーした池沢や荻野、間宮たちの姿は見えない。どこか別のところへ移動したのだろう。
 先ほど試験場から出てきた田嶋もまた、軽薄な笑みで純也を一瞥すると、さっさと広場を後にした。
 今、広場にいるのは純也と美耶子、美里に留美の四人だけだった。 辺りを重い沈黙が包んでいる。
 その場にいた誰もが俯き、唇を噛む。握り締めた拳は真っ白になるほどで、あふれ出しそうになる感情は全身を小さく震わせた。
 第二ゲーム『フラッグ』は終わった。
 現在の生存者は――純也を含めて美耶子、美里、留美、田嶋、池沢、間宮、荻野の8人。
 試験をクリアーした留美から純也は全てを聞いていた。
 まだ試験を受けていないのは伊月と玲子の二人。
 そして制限時間が間に合わず、一人は試験を受けることが出来ないということ。
 つまり伊月か玲子のどちらかが死ぬ。
 その事実は純也の心を絶望に染めた。
 また死んでいく。
 金本が田嶋に殺されたとき、これ以上自分の周りの人を死なせないと決めたはずなのに。
 もっとよく考えていたら。そうすれば全員が生き残れたかもしれないのに。
 そんな思いばかりが頭を過ぎ去っていく。
 だがどれだけ思い苦しもうが、現実は変わらない。
 一人は、必ず死ぬのだ。
 行き場のない感情は、次に目に見えない相手へと向けられる。
 『ブレインキラー』というゲームを開催した誰か。
 誰が考え、何の目的でこんなゲームを行っているのかは分からない。だがこの瞬間、純也はゲームの主催者を憎悪した。殺意さえ抱いた。
 何故、こんな馬鹿げたゲームで人は死ななければならないのか。
 ゲーム。その言葉が気に入らなかった。人の命を、軽々しく弄ぶようなその言葉が。
 きゅっと手に温かなものを触れる。
 見ると、白く細い手が純也の手を包み込んでいた。
「美耶子、さん……」
 純也の目の前には少女の姿。
 紺色のブレザーに赤色のプリーツスカート。背中半ばまでまっすぐ伸びた癖のない黒い髪、人形のように整った顔立ちは深遠のお嬢様をイメージさせるが、今は生気が感じられない。美耶子は憔悴しきっていた。
 それでも純也を気遣い、小さく微笑んでみせる。
 純也は嬉しさと申し訳なさがない交ぜになった複雑な笑みを、美耶子へと返した。
 『ロジックキューブ』からどれだけの時間が流れただろうか。
 休む間もなく思考し続けた脳は深刻な疲労を訴えており、時折意識がかすんだ。
 だがここで休むわけにはいかなかった。まだゲームは終わっていないのだから。

 コツコツと誰かが階段を上がってくる。
 果たして生き残ったのは玲子か伊月か。
 全員の視線が階段へと集まる。
 やがて、姿を見せたのは、
「伊月さん……?」
 沈痛な表情をした伊月卓だった。
 そしてそれはもう一つの答えを示している。
 月村玲子は…………死んだ。
「すまない……」
 伊月は短く、そう呻いた。

更新日:2010-10-01 12:45:54

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