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第三章 マヨヒノニワカアメ

■ ■ ■ ■ ■

「春じゃない、ねぇ……」
 リリーの言葉を小声で復唱しつつ、社は虚空に生んだ知覚子の塊に腰かけ、妖夢とリリーの戦いを眺めていた。すぐ傍では、チルノと大妖精が並んでリリーの様子を窺っている。
「あの、手伝わなくていいんですか?」
「あぁ、いい」
 おずおずと尋ねる大妖精に、社はぱたぱたと手を振りつつ、
「あの程度に負けるほどヤワじゃないよ、妖夢は。加減ができないほどの間抜けでもないし。任せておけばいい」
「でも……」
 未だ心配そうな大妖精。社はそれに、彼女の背後へ一瞬鋭い視線を送り、皮肉げに口元を曲げながらまた視線を妖夢の方へと戻した。妙な表情の変化に、大妖精が怪訝そうに背後を振り返る。
 そこに、一人の少女がいた。胸元を赤いリボンで留めた、白と青のドレス。長いスカートから覗く脚元はブーツで固められている。群青の髪はまっすぐに腰まで届き、頭には桃のついた帽子。そしてその少女は、宙に浮いた注連縄の巻かれた岩――要石に腰かけていた。
「あー、面倒なのが出やがったなぁ……絡まれないといいんだけど」
 少女に聞こえないようにぼやく社。彼女が何者なのかも分かる。天人の比那名居天子(ひなない てんし)だ。
 彼女は、社とチルノたち、そして遠くで大立ち回りを演じる妖夢とを順に眺め、しばらくして社に焦点を合わせると、口を開く。
「で、妖夢は何をしてるの?」
 妖夢の方を指差しながら、初対面の相手に横柄な口調で尋ねる天子。社は内心ため息をつくとともに、答えるべきか真剣に悩んだが、下手に手出しをされても困るので素直に答えることにする。
「うっかり起こしちゃった妖精の相手。邪魔するなよ」
「いつ終わるのよ?」
 目を合わせずに社が答えるなり、苛立ち混じりの問いをぶつけてきた。腰に両手を当てて、全く主張のない胸を不遜に逸らしている。
「さぁな。一分後かもしれないし、一時間後かもしれない」
 肩を竦めつつおざなりに答える社に、天子は眉を吊り上げながら、
「私は妖夢と遊びに来たのっ。剣の腕が上がったか見てあげに来たのっ。だからさっさと終わらせてよ!」
「オレに言うんじゃねぇ」
 さすがの社も、次第に顔を顰め始める。彼の隣では大妖精がおろおろしており、そのさらに隣ではチルノが何も考えず金平糖を摘まんでいる。だが、当の天子はそんなことはお構いなしに、子供が駄々をこねるように言った。

更新日:2010-09-05 16:18:30

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