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謎の答えを握る男

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祖父の日記・・・。一度きり見て以来、開いていない。

私の祖父、デルモンド名誉博士は私にとっても憧れの存在だった。

私が小さい頃、両親が亡くなり私は4歳でこの王宮に入った。
読み書きを覚え、勉強を覚え、10歳で祖父からアルガン博士の元に連れていかれた。
15歳で元服、正式に下級研究員となった。。。
もっとも、10歳の頃には祖父は覚悟していたのだろう・・・。
祖父がアルガン博士に私を預けた3日後には、祖父は天に召されたのだから・・・。

その時に遺品として祖父の日記を受け取った。

王宮に務めると言うのは、一見華やかな様で、実はとても孤独で忍耐のいる仕事だ。
どこの国もそうだが、下級の使用人から上級の騎士、役人、大臣に至るまで唯一、『愚痴』を許されたのが『日記』と言う手段だった。日記に書かれている事は国を裏切る謀反以外はすべて許される領域だ。国で仕事をする人間がストレスを抱え氾濫するのを防ぐためにも、日記なら少々の上司への不満も許されるし、国から無料で日記は配布され、たとえどんなに嫌いでにくい相手でも、他人の日記を見るのは厳罰に処され重い罪を背負わなければならない。

私たちは決して他人の日記は見ない。

それだけはルールであり、暗黙の了解なのだ。それだけに本心が書けるのも、事実が書けるのも日記だけだった。

レオナ女王様はクレイナバ国第二王子とご結婚され、10歳で王女になられた。
当時私は5歳だった。大皇后レオナ様の事はほとんど知らなかった。
私がここに来て一年後、レオナ大皇后さまが天に召され、喪にふしたのをかすかに覚えている程度だった。当時まだ幼かった私はよくは知らなかったが、後で聞くと、沢山の国民たちから本当に愛されて天に召されたのだと知った。
自国史の近代史資料作成の最高責任者であった私の祖父は亡くなる前、その全てをアルガン博士に託し、必然的に私もその仕事に従事した。

『人の日記は決してどんな理由があるにせよ見ぬもの』
を小さいころから植え付けられていた私は、祖父の日記を見るのは罪悪感意外のなにものでもなかった。

祖父が亡くなり、暫くふさぎこんでいた私にある日アルガン博士が言った。

「ラントス・・・いつまでそうやって塞ぎ込んでるつもりかね?そんな姿は君のおじい様だって見たくはないはずだ。おじい様の日記を今だけなら見てもいいぞ?私は見なかった事にしてやるから、今日一日だけそれを読んだら、明日からはきちんと勉強に戻るのだよ?」

「ですが・・・見るのは罪悪感があります・・・。」

私がそう言うとアルガン博士はははっと笑った。

「それだけ解っていれば充分だ。今日だけだ。君に対するおじい様の思いが沢山それには詰まってるはずだ。ただし、今日だけだよ?」

「アルガン教授・・・なぜ、そんな事が解るのですか?読んだ事があるのですか?」

「そんな訳ないだろう!だが、解るさ、その位。君はおじい様の一番の宝物だったからね。おじい様は仕事以外ではいつも君の事しか話さなかった。文字が書けるようになったとか、今日は友達の誰かと喧嘩して私に泣きついてきたとか、もう耳がタコになるかと思うぐらい聞かされたよ。」

そう聞いて、私はその日だけ日記を読んだ。

書いてあるのは私の事ばかり・・・私が忘れている様な事まで事細かに記載してある。

思わず自分の日記と読み比べてみると日にちも出来事もしっかり合っている。

「私が、何故歴史研究員になりたかったか解るかね?」
ふとアルガン博士が言った。

「面白いだろう?それが君のこれまでの歴史だ。『歴史』とは『人間が生きた証』なんだよ。こんなに面白い研究は他にないと思わないかね?」

更新日:2011-07-05 08:55:55

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