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 全てを失ってしまったような、そんな気持ちに襲われて、
涙を流す毎日だった。
 睦子はメールの返事はしなかった。どうせもうお終いだ。自分と
彼の進む道は分かたれた。
 店内では、依然、結城の争奪戦が繰り広げられていた。
 彼女がいると知った時には、みんながショックを受けたようだが、
河嶋・和子・洵子の例がある。つまり略奪だ。誰も、結城の彼女が
店内の人間だとは思っていないから、身近にいる自分達には
十分チャンスがあると思っているらしい。そういう話しを、睦子は
復帰してから京子や和子から聞いた。
「もうすぐクリスマスでしょう?それまで、何とかってみんな思ってる
みたいだけど、なんかこんな事を言うのもなんだけど、馬鹿みたい
だよね。彼女がいるのにみんなして、躍起になって」
 京子が呆れ顔でそう言った。
「アユちゃんは、今年のクリスマスはどうするの?良かったらさ。
2人で過ごさない?」
 和子がそう言った。
「それはやめておいた方がいいよ~。女2人で過ごすなんてさぁ~」
 と、京子が言った。
「どうして?」
「だって、なんか虚しく無い?どうせなら、誰か男を誘ってさ、Wで
食事するとかの方がいいんじゃない?工藤君と、バイヤーの中川さん
なんかを誘ったら?」
 和子が河嶋と別れた事を知って、バイトの工藤が時々和子を誘って
来るらしい。そう言えば前に、いいなと思っていたと言っていた事を思
い出した。
「どうして、中川さん?」

更新日:2010-09-08 12:26:38

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