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9.進むべき道


 街はすっかりクリスマスの装いだ。
 12月に入ってから、めっきり冷え込んで来た。
 短い秋だった。
 睦子は1年の中で秋が一番好きだったが、その秋の1カ月を丸々
家の中で過ごし、物凄く損した気分だった。
 売り場のディスプレイも、クリスマス柄の物や小物で彩られていた。
 赤と緑の反物が目立つ。
 睦子は12月に入ってすぐに職場に復帰した。だが、本調子とは
言えない。そんな睦子を気遣ってくれて、主任は睦子をレジの担当にした。
 服地売り場の人間だけでなく、他の売り場の誰もが、顔を合わす度に
「大丈夫?」と心配そうに尋ねてくれた。
 そんな中で、睦子は結城とだけは極力顔を合わせないようにしていた。
 結局、あれから一度も連絡を取り合っていない。
 愛想を尽かされたんだ。そう思う。
 だが出勤3日目に、結城からメールが来た。

 “職場復帰、おめでとう。どうして顔を合わせようとしないの?”
 
 その言葉を見て、動揺する。
 なんで、今更こんなメールを寄越すの?
 ずっと、なんの連絡もくれなかった癖に……。
 結城の真意がわからない。
 休んでいる間、睦子は泣き暮らしてばかりだった。将来への不安、
不甲斐ない自分自身への怒り、なんの連絡もない結城に対する絶望感。

更新日:2010-09-08 12:25:24

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