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「出会いなんて、早々無いものね。…私はさ。元々、
特別結婚願望なんて無いのよね。縁が有ればするし、
無ければそれはそれで良しって思ってるの。でもウチも
山口さんの所と同じで、兄貴も独りもんだから親がね。
煩いのよね、やっぱり」
「そう言うものなんですか?やっぱり…」
「鮎川さんはまだ若いから、親御さんから結婚を催促される
事は無いでしょうけど、25を過ぎたら、言われるかもよ」
 男でも、いつまでも独りでいると言われるくらいだから、
女なら尚更だ。女の方が、年齢がいく程、機会が減る。
だから親は尚更心配する。
「結婚しなくても一人でやっていける経済的基盤がしっかりした
仕事をしているならともかく、たかが知れてるものね、あそこじゃ。
それに、やっぱり家族を持たないで一生一人でいるのは
寂しいものだって親から散々言われ続けてさ。最初は反発
してたけど、年々身に沁みて来ると言うか…。こんな事を言うの、
なんか年よりじみた気がして嫌なんだけど」
 経済的基盤がしっかりした仕事、か。
 睦子も将来結婚するかどうかは、まだわからない。
 浜田と一緒で、縁があればするし、無ければそれはそれで
構わないと思っていた。そして、それとは別として、仕事は
仕事としてこの先どうするのかと思い悩む。
『君は、戦う前に諦めるのか』
 いつも笑顔の結城が、怖い顔をしてそう言った。
 ゲーセンでのリベンジを誘ってきた時にも、
『勝負する前から投げ出すなんて、アユちゃんらしくないな』
 と彼は言った。

更新日:2010-08-29 15:16:41

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