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 声も無く、肩を震わせて泣く遥子を見て、睦子は咽(むせ)び泣いた。
 行き場所を失った男と結婚しても、確かに遥子が幸せに
なれるようには思えない。彼にとっては遥子の幸せよりも、
まずは自分の幸せなんだ。だから、そうと気づいて別れて
良かったのだ。けれども、悲しい。
 2人が泣いているそばで、浜田は大きく溜息をついた。
「悲しいのは分かるけど、これ以上泣かない方がいいと思うわよ。
上村さんはよく決心したと思う。いつまでも引きずりたくないから
お見合いするんでしょ?ほら、もう、泣かないの」
 浜田の言葉に、2人はそれぞれに涙を拭った。
 そうだ。浜田さんの言う通りだ。悲しいけれど、あの男といつまでも
続いている方が、ずっと悲しい事なんだ。これで良かったんだ。
睦子はそう思い直す事にした。
「私も、お見合いしようかな……」
 突然、浜田がそう言い出して、睦子は驚いた。遥子もびっくり
した顔をしている。
「えっ?どうしてですか?」
 驚く2人の顔を見て、困ったように浜田は笑う。
「だってさ。あの職場じゃぁ、先が見えてるじゃない。いつまでも
独りでいてもね。山口さんも煩いしさ」
「まさか、生物の先生と会うつもりなんじゃ?」
「ははは、やめて、それは無いから。間違っても、あの人のお兄さんと
会うつもりはありません」
 きっぱりとした口調で言われて、取り敢えずホッとした。
睦子がホッとするのも可笑しな話しなのだが、どうにも
他人事のような気がしない。

更新日:2010-08-29 15:15:29

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