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1.はじまり


 睦子(むつこ)は目覚めた時、胸がとても高鳴っている事に驚いた。
 思いも寄らない人物が、夢の中に登場した。
 鬱蒼とした森の中だった。
 木々の間から光が差し込んでいて、そこの部分だけは
眩しいくらいに明るいのに、それ以外の場所は暗い。
その光と影のコントラストが幻想的だ。
 自分以外、誰もいない。
 見覚えの無い、幻想的な森の中にただ一人でいながら、
何故か何の不安も恐れも感じないのだった。
 目的も何も無く、ただ森の中を歩いていた。
 どこまで行っても同じ光景だ。光の角度も影の位置も、
微塵も変わらない。その事自体が不思議なのに、夢の中の
自分は何も感じず何も考えずに、ただ歩いている。
 一体、どこへ行くんだろう。いつまで歩いているんだろう。
森の中で歩いている自分とは違う意識の自分を感じた。
幽体離脱して少し離れた所から自分を見ているような、
そんな感じだ。勿論、幽体離脱なんてしていない。
 唐突に、本当に唐突に、目の前に男が現れた。
背が高く逞しい若い男だ。
 睦子は驚いて足を止めた。
 その男は、光でも無く、影でも無い場所に立っていた。
 光と影しか無い場所なのに、光に当たってはおらず、
かと言って闇の中に埋もれてもいない。それなのに、
その姿ははっきりとしている。
 睦子はその男を知っている。
 何故彼がここにいるんだろう?
 不思議に思い、立ち止まったまま彼を見ていた。
 男は笑った。

更新日:2010-08-06 18:34:44

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