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整理の時間
リノンは木々が生い茂る道を、黙々と歩いていた。
(わたし、何が変だったんだろう?)
理由がわからない不安に、気分が悪い。
(ソアラを心配するのは当たり前でしょ。仲間なんだもん)
切り株を見つけたので、リノンはそこに座る。
(どうしたらいいんだろう?)
ふと、思った。
(どうにかしなきゃいけないってことは、わかってるんだね)
それなのに、それだけしかわからないことに、リノンは大きくため息をついた。
* * *
町はずれの草原に、男二人はいた。
「私、ソアラさんの看病がしたいんですけど」
無事に町に着き、ソアラをベッドに寝かせている。ヴァーロンは心配で仕方ないようだ。
「まあ、ちょっと待ってくれ」
シーライがヴァーロンを選んだのには理由があった。リノンには絶対に話せない。シンシェにしようと思ったが、捕まえる前にどこかに行ってしまった。エリスは何やら台所で格闘をしているようだった。
と、一番最後に、仕方なく選んだのがヴァーロンであった。
(なんて、バレたら絞められるな)
シーライは笑顔を張り付けると草むらに座る。ヴァーロンも嫌そうな表情をしながら草むらに座った。
「なあ、もう解決したことなのに、何年も経ってから実はそれは違うんだって言われたら、お前はどう思う?」
いきなりの質問に、ヴァーロンが驚いた表情をしたのは一瞬であった。その後は、平然と思ったことを口にした。
「正直言って、空気読めよって感じですね。その時に言ってくださいよって、たぶん殴ります」
「神父、乱暴だぞ」
シーライは軽口をたたきながら、小さくため息をついた。
(やっぱり、そうだよな)
死んだ人たちを見て、シーライは幼いころの記憶にまた心を苦しませていた。
(だけど、言わないとリノンはどうなる?いや、最初っから言ってればよかったんだ。本当に、何やってるんだ俺は)
自己嫌悪に陥る。
(ただ、思う。今更言って何になるんだ?いや、周りの目が怖いだけだな。なんてズルイんだ。俺は)
大きくため息をつく。
「あの、呼んでおいて黙るの止めてくれませんか?」
ハッと我に変えるシーライ。曖昧に笑った。
「悪い、考え事してた」
「なんですか?悪い事でもしたんですか、昔」
「あー」
歯切れの悪い答えに、ヴァーロンはため息をついた。
「私は神父ですよ。懺悔しますか?」
「弱みを握るつもりか?」
「そうとも言います」
「そこは否定しろよ」
シーライは苦笑する。
「俺もお前みたいに図太かったらな」
「失礼ですね、私だって繊細なんですよ」
必要以上に訊いてこないことに、シーライは感謝した。
「まあ、私がもし過去に過ちを犯したとして」
と、笑っていたのにいきなり真剣な趣をし始める。
「それを掘り起こしたくないのだったら、すべてに対して誠意を見せればいいと思いますよ。自分のエゴですが。なんと言われようと、やらないよりは大分マシですよ」
「そう、だな」
少し、心が軽くなった気がした。
「まさか、お前にそんなこと言われるなんて」
「失礼ですね。私は神父ですよ」
「エセ、だけどな」
殴られると思ったが、ヴァーロンはにこやかに笑っていた。
「もう、大丈夫そうですね」
「えっ?」
「それではそろそろ、ソアラのところに行かせてもらいますよ」
ヴァーロンは立ち上がると、そのまま行ってしまった。
残されたシーライは、目をパチクリと見開き、動揺していた。
(あいつ、神父らしいことしてたのか?)
シーライは驚きのあまりにしばし動けずにいた。
* * *
「これ、何?」
ベッドから上体を起こしたソアラが、不思議そうにエリスの手に持っているものを見た。
「ジュースですわよ」
薄茶い色のジュース、液体、液状化している固体のようなものに見えた。そして、粘り気もかなりありそうである。
(嘘、絶対飲み物じゃない。飲んじゃ駄目な気がする)
ソアラは心からビンビン伝わる警告音に、焦っていた。
「わたくし、偉そうなことを言ってしまって、本当にすみませんでした。そのせいで、貴方は変な方々に連れて行かれてしまったのに」
人殺しをしたことを知らないエリスに、ソアラはにっこりと笑った。
「気にしないで。結構馴れっこだし。高望みをするのは、諦めてるから」
ある意味、このジュースのことを言っているのかもしれないと考え、ソアラは否定した。
(ある一種の漢方かもしれない。エリスはよく飲んでるかもしれない)
心の中で葛藤する。と、エリスはジュースを置いて、ソアラの手を握った。
「諦めることはよくありませんわ。自分に限界を作っているんですもの。限界を作ると大変ですわよ。超えるときに。ですから、作らないように、諦めないで進んで行けばいいのですわ」
「あ、ありがとう」
(わたし、何が変だったんだろう?)
理由がわからない不安に、気分が悪い。
(ソアラを心配するのは当たり前でしょ。仲間なんだもん)
切り株を見つけたので、リノンはそこに座る。
(どうしたらいいんだろう?)
ふと、思った。
(どうにかしなきゃいけないってことは、わかってるんだね)
それなのに、それだけしかわからないことに、リノンは大きくため息をついた。
* * *
町はずれの草原に、男二人はいた。
「私、ソアラさんの看病がしたいんですけど」
無事に町に着き、ソアラをベッドに寝かせている。ヴァーロンは心配で仕方ないようだ。
「まあ、ちょっと待ってくれ」
シーライがヴァーロンを選んだのには理由があった。リノンには絶対に話せない。シンシェにしようと思ったが、捕まえる前にどこかに行ってしまった。エリスは何やら台所で格闘をしているようだった。
と、一番最後に、仕方なく選んだのがヴァーロンであった。
(なんて、バレたら絞められるな)
シーライは笑顔を張り付けると草むらに座る。ヴァーロンも嫌そうな表情をしながら草むらに座った。
「なあ、もう解決したことなのに、何年も経ってから実はそれは違うんだって言われたら、お前はどう思う?」
いきなりの質問に、ヴァーロンが驚いた表情をしたのは一瞬であった。その後は、平然と思ったことを口にした。
「正直言って、空気読めよって感じですね。その時に言ってくださいよって、たぶん殴ります」
「神父、乱暴だぞ」
シーライは軽口をたたきながら、小さくため息をついた。
(やっぱり、そうだよな)
死んだ人たちを見て、シーライは幼いころの記憶にまた心を苦しませていた。
(だけど、言わないとリノンはどうなる?いや、最初っから言ってればよかったんだ。本当に、何やってるんだ俺は)
自己嫌悪に陥る。
(ただ、思う。今更言って何になるんだ?いや、周りの目が怖いだけだな。なんてズルイんだ。俺は)
大きくため息をつく。
「あの、呼んでおいて黙るの止めてくれませんか?」
ハッと我に変えるシーライ。曖昧に笑った。
「悪い、考え事してた」
「なんですか?悪い事でもしたんですか、昔」
「あー」
歯切れの悪い答えに、ヴァーロンはため息をついた。
「私は神父ですよ。懺悔しますか?」
「弱みを握るつもりか?」
「そうとも言います」
「そこは否定しろよ」
シーライは苦笑する。
「俺もお前みたいに図太かったらな」
「失礼ですね、私だって繊細なんですよ」
必要以上に訊いてこないことに、シーライは感謝した。
「まあ、私がもし過去に過ちを犯したとして」
と、笑っていたのにいきなり真剣な趣をし始める。
「それを掘り起こしたくないのだったら、すべてに対して誠意を見せればいいと思いますよ。自分のエゴですが。なんと言われようと、やらないよりは大分マシですよ」
「そう、だな」
少し、心が軽くなった気がした。
「まさか、お前にそんなこと言われるなんて」
「失礼ですね。私は神父ですよ」
「エセ、だけどな」
殴られると思ったが、ヴァーロンはにこやかに笑っていた。
「もう、大丈夫そうですね」
「えっ?」
「それではそろそろ、ソアラのところに行かせてもらいますよ」
ヴァーロンは立ち上がると、そのまま行ってしまった。
残されたシーライは、目をパチクリと見開き、動揺していた。
(あいつ、神父らしいことしてたのか?)
シーライは驚きのあまりにしばし動けずにいた。
* * *
「これ、何?」
ベッドから上体を起こしたソアラが、不思議そうにエリスの手に持っているものを見た。
「ジュースですわよ」
薄茶い色のジュース、液体、液状化している固体のようなものに見えた。そして、粘り気もかなりありそうである。
(嘘、絶対飲み物じゃない。飲んじゃ駄目な気がする)
ソアラは心からビンビン伝わる警告音に、焦っていた。
「わたくし、偉そうなことを言ってしまって、本当にすみませんでした。そのせいで、貴方は変な方々に連れて行かれてしまったのに」
人殺しをしたことを知らないエリスに、ソアラはにっこりと笑った。
「気にしないで。結構馴れっこだし。高望みをするのは、諦めてるから」
ある意味、このジュースのことを言っているのかもしれないと考え、ソアラは否定した。
(ある一種の漢方かもしれない。エリスはよく飲んでるかもしれない)
心の中で葛藤する。と、エリスはジュースを置いて、ソアラの手を握った。
「諦めることはよくありませんわ。自分に限界を作っているんですもの。限界を作ると大変ですわよ。超えるときに。ですから、作らないように、諦めないで進んで行けばいいのですわ」
「あ、ありがとう」
更新日:2010-08-28 13:07:31