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気づいても後の祭り

 ヴァーロンは腕に結ばれた十字架を見つめて、小さくため息をした。
(たく、何てモノ渡してくれるんですか)
 スウスウと無邪気に眠るソアラを見て、またため息をつく。
「どうした?」
 眠っていたと思っていたシーライが自分に問い出すので驚き、少し身構えるヴァーロン。
「なんですか?」
「いやいや、俺が訊いたのね。聞こえてたか?」
 呆れたように言われ、少しムッとしたが話が進まなくなりそうなので怒るのはやめておく。
「そういえば、私も訊きたいことがありました。私達がいない間、二人は進展ありましたか?」
 思わぬ問いに、シーライは咳き込む。
「なっ!進展なんてあるわけねぇだろうが!好きじゃないんだからさ」
「照れて言われると逆に恥ずかしいのでやめて下さい」
「ウルサイ!そんなお前はどうなんだよ?」
「私ですか、そうですねぇ。まあプレゼントをもらいましたよ」
「プ、プレゼントォ?あいつから?信じがたい」
「十字架です」
「・・・・・・それは、持ってて普通のものじゃないか?神父として」
「まあ、それはいいじゃないですか」
 から笑いをするヴァーロン。どこかしらうれしそうなので、シーライがからかってやろうと思ったとき、ソアラが身じろぎする。ビクッと驚く二人。
「お、起きたかと思ったぜ」
 ホッと胸を撫で下ろす。
(しかし、ヴァーロンがまさかソアラを好きになるとは)
(まさか、シーライさんがリノン様を好いていらっしゃるとは)
 二人して唸る。
(趣味悪いな)
(かわいそうです)
 お互いに同情しあう。
(爆弾に苦労するだろうな)
(鈍感すぎて苦労するでしょうね)
 お互いの肩を叩きあう。
「応援してるからな」
「苦労するでしょうね、シーライさん」
 と、同時に言い、
「何にだ?」
「何をですか?」
 お互いに問うのだった。

* * *

 朝、目覚めてシーライはまずリノンを見る。まだ寝ているみたいだ。
「おはよう御座います、シーライさん」
 後ろからの声にシーライはビクッと驚いた。
「朝から見つめてぇ、面白いですねぇ。ソアラさんに言っちゃいましょうかね」
「お前なあ、おれは護衛だぞ。ちゃんとそこに入るかどうか確かめないと、任務にならんだろうが」
「まあ、そうかもしれませんけど―――」
「さっさと起こして行くぞ。朝飯食わないと死んじまうんだろ?」
「そうですね、死んでしまいますから早く食べに行きましょう」
 ソアラを起こしに行くヴァーロン。肩を叩き、起こすが身じろぎ嫌がる。
(か、可愛い・・・・・・)
 と、頬に手をかけようとしてパチッとソアラが目を開いた。
「何、やろうとしてんの?」
「い、いえ、起こそうと思って」
「じゃあこの手はなんだぁ!!」
 ソアラは爆弾を取り出そうとしたので、その手を後ろにねじ伏せる。
「痛いぃ!やめれぇ!」
「貴方こそ爆弾はやめて下さい!」
「あ、あんた何しようとしてたのよ!!」
「ですから、起こそうとしたんですよ」
「嘘付け!!なんかやらしいこと考えてたんでしょ!」
 そう言われたときに、一瞬だけ反応したヴァーロン。ソアラはそれを見逃さなかった。
「あんた、何歳?」
「え、私ですか。二十四―――」
「十も年上!?それで何かしようものならあんたロリコンよ!!」
 ロリコン、その言葉はヴァーロンの心に深く突き刺さった。
「お前ら、いつまでもじゃれあってないで起きろ」
 シーライに言われ、ひとまずじゃれあい、らしきものは終わった。ソアラは納得行かないような表情をしながらも、素直にいうことを聞く。ヴァーロンは小さくため息をつくとヴァーロンを睨んだ。
「じゃれ合いじゃありません」
「どうだか」
「でしたら、貴方はいつもじゃれあってますよ」
「お前らみたいなじゃれ合いはリノンとはしない」
「リノン様だなんて一言も言ってませんよ」
「うぐぅ」
 墓穴を掘ったことに気づきながらも反論。
「じゃあ、俺がソアラとじゃれあっているとでも思うのか!」
「・・・・・・思いませんね」
 考えてみたらしく首を振って否定するヴァーロン。
「だろ?」
「さっきからなんの会話してるのかなぁ?」
 ソアラが怒りを込めながら後ろから問う。ビクッと驚く二人はゆっくりと振り返ると仁王立ちをするソアラが上から睨んでくる。
「ソ、ソアラさん?」
 二人して冷や汗を流す。
「天誅!!」
 爆弾を持ったソアラが二人を追いかける。それをニコニコ眺めるリノン。
「朝から楽しそうだなぁ」
 二人が恐怖を味わっている中、的外れなことを思うリノン。ふと、辺りを見回す。風が静かになびく。
「・・・・・・誰?」
 呼ばれる声につられ、リノンは歩き出した。それは、三人が走っていったほうとは逆方向であった。

* * *

更新日:2010-08-11 23:25:48

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