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小説

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病室にて

自分で出来るって言っているのに、入院の手続きやら、病室の荷物の持ち込みやらの全てを兄ちゃんがやってくれました。
病室に入るなり、用意されている設備をチェックする事も怠りません。

大部屋がいっぱいと言う事であてがわれたのは豪華な個室。
テレビに冷蔵庫、電話までありました。
……大部屋は大部屋で楽しかったけど、今回は個室の方がありがたいかな。
窓の外を恐る恐る覗いて身震いしている高所恐怖症の兄ちゃん。
僕が病院着に着替えて落ち着いても、一向に帰る様子はありませんでした。

「本当についてなくて平気か?」
「別に今日はすることはないし……なんだか眠い。横になる」
「そうか……」
「……帰らないの?」
「ん?……いたら邪魔か?」
「そういう訳じゃないけど……」

……僕の気持ちはとっても複雑。
一緒にいてくれるのは心強いけど、実はこの時物凄く頭が痛かった。
あんまり苦しんでいる所は家族に……兄ちゃんに見られたくない。
今までも家族には悟られないように頭痛がしていても極力平気な素振りをして見せていました。吐く時もこっそり吐いていました。

「頭……そんなに痛むのか?」
「それほどじゃ……ないよ」
「……横になってろ。下の売店で熱冷まシート買って来る」
「……ありがと」

僕がお礼を言うと、兄ちゃんは口元を軽くほころばせて病室を出て行きました。
兄ちゃんがいない間にトイレに駆け込み吐いて頭痛を少しでも和らげた。
ベッドに横になって天井を見上げる……。

……いつ出れるのかな……何でもないといいな……頭……痛いな……。

僕はいつの間にか眠っていました。

目を覚ますと、額に熱冷まシートが貼ってあることに気付きました。
ベッドサイドを見ると、パイプ椅子に兄ちゃんが狭そうに座っていました。

「兄ちゃん……」
「ん?どうだ?まだ頭は痛むか?」
……テレビがあるのに付けもしないで、本も雑誌も読まないで、何もない病室で兄ちゃんは何を考えて座っていたんだろう……。
「……大丈夫。痛くないよ。デコ……冷たくて気持ちイイ……」
「そうか。吐気は?」
「……しないよ……なんで?」
「気持ち悪い時の顔して眠ってたから……」
「……どんな顔?」
「右の奥歯をかみしめてさ、こうやって首を縮めて息を止めるようにして眠るんだ……昔からそうだ」
僕が気持ちが悪い時にどんな顔をして眠るのかを実際にやってみせた兄ちゃん。
……僕ってそんな怖い顔で眠るんだ。
「僕はそんな怖い顔じゃないよ」
「怖い顔で悪かったな」
僕の頬っぺを痛む頭に響かないようにそっとつねりながら兄ちゃんは笑いました。
「5時くらいに先生が来るって……ちゃんと正直に症状を言うんだぞ」
「大丈夫だって……ちゃんと話すから……」
頭痛が酷くなって、喋るのが辛くなってきました。
その事に気付いたのか、兄ちゃんの眉間に皺が寄り始めました。

「何だか眠い……もうちょっと寝る……ここ、涼しくて良く眠れる……」
「そうか……俺、今日は帰るけど……何か欲しいものはあるか?」
「そうだな……」
「何か本とか?」
「本はいらない」
「じゃあDVDは?」
「んーー」

兄ちゃんは、僕が何もない病室では退屈するだろうと思って何か退屈しのぎを用意したいらしい。
頭が痛くて目を使いたくないのだけれど、何か頼まなければならない雰囲気。
確かに頭痛がしていない時なら、暇をもてあましそうだった。

「何にもないのも暇だろう。ゲームなんかどうだ?」
「じゃあゲームでいいよ……僕が今までやった事がない奴で……僕がハマりそうな奴。あ、すぐにクリアー出来そうなやつね。どうせこの入院中にしかやらないんだから」
「分かった。お前がハマりそうな奴だな」
「違ったら罰金だからね」
「合ってたら賞金だぞ」
「それはイヤ!っつぅ……」
ちょっと大きな声を出しただけで頭に激痛が走りました。
「大丈夫か?薬貰うか?」
「平気……」
「そうか……じゃあ……明日も来るからな。ちゃんと正直に先生に症状を言うんだぞ」
「りょーかい……」
……痛いのを堪えて、兄ちゃんに微笑んで見せた僕。
兄ちゃんは眉間に皺を寄せながらも、口元を軽くほころばせると病室を後にしました。

家にいる時は全然眠れなかったのに、病室のベッドは驚くほど良く眠れました。
一人になって目をつぶると、自分が眠りに落ちて行くのが分かりました。
眠りに落ちるまでの間は、同じ言葉が頭の中をグルグルと回りました。

……静か……眠い……頭痛い……気持ち悪い……何でもないといいな……。

更新日:2010-07-30 16:05:03