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小説

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病院へ……

兄ちゃんの車に乗って病院へ向かう。
父さんと母さんも来ると言っていたけど、
「たかが検査入院なんだから大げさだよ」と言って断り、運転手&荷物持ちとして兄ちゃんについて来て貰うことにした。

話声が頭痛を引き起こす引き金になる時がある。
父さんたちが来れば、きっと僕が不安にならないようにと、ひっきりなしに明るく喋り続けることは目に見えている。
僕は父さんたちの気持ちを知っていながら、頭痛が始まれば、イラつきを覚えてしまう。
だからと言って「頭が痛いから黙ってて」なんて言いたくはない。
有難迷惑・余計なお世話だったと、父さんたちに思わせてはいけない。
その点、兄ちゃんは父さんたちと違い口数が少ない。
一緒にいて気が楽だ。色々な意味で安心できる。

……でも今は、流石の「兄ちゃん効果」も僕の不安を完全に抑えることは出来ない。
病院が近づくにつれて心臓の鼓動が早くなっていく。
検査する前からこんなに怯えていてどうする!?と、自分を鼓舞して見るけれど、片頭痛持ちの頭痛スペシャリストが、今自分を悩ませている頭痛は決して普通の痛みじゃない事を本能的に察知している。
そんなのは気のせいだと自分に言い聞かせる。
けれどこの頭の痛みは決して気のせいではない。

車が徐々に病院に近づいて行く。

動悸が止まらない。呼吸が荒くなっていくのが自分でも分かる。冷や汗もかいて背中がびっしょり濡れている。
貧血を起こした時のように目の前に黒いモザイクがちらつき始め、視界がかすんで行く……。

兄ちゃんがハザードをつけて路肩に車を止めた。
「大丈夫か?」
……大丈夫なわけがないじゃん!
「大丈夫……」
心配そうに僕の顔を覗きこむ兄ちゃんの顔を見るのが辛くて窓の外を見た。
かすむ視界に、これから行く病院がビルとビルの間に垣間見えた。

あんなところ行きたくない。行ったら帰って来られないかもしれない。
……………………ただの検査だって言ってるじゃん!
検査はキャンセル待ちだからいつになるか分からないけど、検査が終わればすぐに出て来る事が出来るんだから!何でもないんだから!!
……何でもないのに、何でこんなに頭がいたいんだよ……気持ち悪い……。

「……車……出して」
「……大丈夫か?」

心配そうに僕を見ている兄ちゃんは見ずに、僕は黙って頷いた。
シフトレバーをPからDに変えようとした兄ちゃんの手を思わず握ってしまった。

「悟……」
「あ、ごめん………行って」

車を出す兄ちゃん。
……兄ちゃんは常に安全運転。それは性格もあるのでしょうが、父さんの妹……兄ちゃんの生みの親が車の事故で亡くなった事が関係している事は間違いないと思う。
その兄ちゃんが強引に車線に戻ろうとして後ろから来る車にクラクションを鳴らされていました。
……僕の具合が悪いから早く病院に行こうとしてる……僕は病院に行きたくないのに。

車が病院の敷地に入る瞬間は目を閉じていました。
入口の前で車を止めた兄ちゃん。
普通なら僕はここで降りて兄ちゃんが車を駐車場に停めている間に受付を済ますのだけれど……。
「どうした?」
「う、うん……荷物……」
……“一人で大丈夫?”と聞こうとして、それが愚問である事が分かり言うのをやめた。
入院の為に荷物は多いけれど、兄ちゃんが一人で持てない量ではない。
「入院手続きの書類。鞄の中……」
「……そうか。とにかく降りてそこで待ってろ。車を置いて来るから」
「うん……」
渋々と言った感じで車を降りて、病院の入り口を見渡す。

……去年、近所の耳鼻科で紹介状を貰って来た時もドキドキしていたな。
顎の下が腫れて近所の内科に行ったら耳鼻科を勧められ、
耳鼻科に行ったら大きな病院で診て貰った方がいいって言われて……。
なんだか重大な病気にかかったみたいで怖くなって……。

『も、もしかして……癌とか……はは、なん……ちゃ……って……』
『……の可能性もあります』

冗談で言ったつもりだったのに、「癌」と言った時にドクターの目付きが変わったのに驚いて、声が小さくなっていた。

あれは去年の9月。
そうか……まだ1年も経ってないんだ。

……いろいろあったな……これからも……いろいろあるのかな……。

更新日:2010-07-30 21:08:28