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小説

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発端

ことは3月の終わり頃から始まった。
頻繁に頭痛を起こすようになっていました。
もともと片頭痛持ちだったので、頭痛は慣れっこだったけれど、今回の頭痛は、いつもの痛みとは違うように感じていました。
吐気が伴う激しい痛み。そして痛み止めが効きにくい。でも吐くと楽になるのが救いでした。
季節の変わり目に頭痛を起こす事は今までにもあった。だから今回のもきっとそうだろう。
薬を飲まなくても、吐けば楽になるならいいじゃない。
なにせ病院から処方されている頓服薬は1錠千円近くもするんだから(保険は利くけど)。
気安く飲めるシロモノではない。
学校が始まれば忙しくなる。学校から放送部に依託された新入生歓迎イベントがあって、部活・サークル対抗新入部員争奪戦が繰り広げられ、獲得した新入生が入部して、この僕が「先輩」って呼ばれるようになって、ゴールデンウィークには新歓合宿。
そのあとに、ばあ様・吉村さん・兄ちゃんと旅行。
たかが頭痛でへこたれている場合ではない……と思っていました。

けれど頭痛はだんだん酷くなる一方だった。
確かに吐けば楽になるのだけれど、頭痛が完全に治まるわけではありませんでした。
常に頭の奥で何かが突き刺さっているような感覚。
針のように細く鋭い物ではなく、すりこぎのような太いものがズンと……。
4月の半ばになると、目を開けているのも辛いほどの痛みになった。
光が目に入っただけで痛い。
音にも敏感になった。車やバイクのエンジンの音が頭にガンガン響くようになり、しまいには普通に付けているテレビの音も耐えきれないほどになった。
パソコンの前はまさに地獄。ディスプレイの光、己の叩くキーボードの音ですら頭痛を引き起こす引き金となった。
横になっても楽にはならず、頭が痛くて眠れないようになっていった。

痛みと睡眠不足からイライラするようになったのは4月の終わり頃から。
無性に腹が立ちやすくなり、人と話しているとイラっとしてばかりだった。
友達や先輩、新しく出来た後輩たちに当たるような事はしてはならないと、自分を抑えるのに必死だった。
そのストレスが更にイライラを募らせることになった。
……病院に行った方がいい。何度も思った。
でも……『もしも』の事など考えたくないけれど、
もしも病院に行って、万が一にも長引くようなことになったら……。
旅行を楽しみにしているばあ様がガッカリするじゃない。

……嘘だ。
ばあ様に気を遣っていたのではなくて、万が一にも悪い病気が見つかるかもしれない事が怖かっただけだ。
でも僕だって旅行は楽しみにしている……だから、旅行が終わってから病院に行こう。
きっと大丈夫。いつもの片頭痛だ。何でもないんだ……。

そう言い聞かせていながら、旅行から帰って来ても病院には行かなかった。いや、行けなかった。
明日には良くなるかもしれない。毎日そう言い聞かせていた。
頭痛は一向に治まらなかった。むしろ酷くなる一方。
今までは家族にも頭痛がする事を隠していたけれど、それもそろそろ限界だ。
病院に行った方がいい事は自分でも分かっている。
けれど行かなかった。いや、行けなかった。行きたくなかった。……怖かった。

そしてついに病院に行った。
頭痛を診てもらうためではなく、定期健診の為だったのだけれど。
問診の時に主治医に頭痛の事をさりげなく話した。

「何か変わった事はありましたか?」
「特には……ああ……時々……頭痛がするかな……時々ですけど」
「いつ頃から?」
「えっと……3月の終わり頃から……だったかな……」
「時々ってどれくらいのペース?どんな痛み?どんな時に痛くなる?今は痛い?」
「えっと……最近は……ほぼ毎日……吐気がして……あ、でも吐くと楽になるんです」
その他にも色々と聞かれたのですが、僕が答える度にドクターの顔が微妙に変化していくことに気付いていました。

「念のため明日から検査入院しましょう。帰りに入院の手続きを窓口でして下さい」
「え!?明日!?」
「早い方がいいでしょう。検査が予約でいっぱいでね。キャンセルが出たらすぐに検査できるように手配しますから」
「そうですか……あの……何日くらい?」
「いつキャンセルが出るかわからないからね。検査して何でもなければすぐに帰れますよ」

  検査して何かあったらどれくらいの入院になりますか?
  何かあった場合、何の病気の可能性が考えられますか?

聞きたい事はいっぱいあった。  
でも怖くて聞けなかった。

明日から入院。退院予定日は未定。
……大丈夫……何でもない……だといいな……。

その日は午後から学校に行くつもりだったけれど、とても行く気にはなれなかった。

更新日:2010-07-30 20:57:40