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消えた春・消える夏・見つけた光

二人で肩を並べて墓地の高台から街並みを見下ろしていました。
木陰で風があるから涼しいけれど、日に当たっているアスファルトは溶けてしまいそうなほど熱そうです。
「風が気持ちイイ♪」
「あんまり無理をするなよ。健康な人だってへばる暑さだ。お前は病み上がりなんだからな」
「分かってる……もう夏なんだね」
「7月も下旬だからな」
「入院した時は梅雨入り前だったのに……あのさ……」
僕は花壇に咲くヒマワリを見て言いました。

「僕……3月の終わり頃から頭痛が酷くて……周りの事を見ている暇がなかったって言うか、庭の桜が咲いていたのも藤が咲いていたのも見た覚えがないんだよね」
「そうか……」
「なんか……いきなり夏になっちゃった感じ。春がポッカリないんだ」
「心に余裕がなければ回りなんて見えないさ。お前が見てるあのヒマワリに気付かない人だって中にはいるんだ。今はあのヒマワリに気付けた事を喜んでおけ」
「……そんなもんかな」
「そんなもんだ……けど……」
「けど何?」
「いや……退院してから言う」
「気味悪いな。今言ってよ」
「……夏もそうなるかも」
「へ?」
「……前期のテストさ。受けられなかったじゃないか」
「ああ……そうだったね」

去年はあれほど留年をしないために頑張ったのだけれど、前期早々長期に学校を休むことになってしまい、進級は2つ目の腫れモノが見つかった時に諦めていました。

「今回はさ、純粋に病欠じゃないか。家出とかでサボった訳じゃない」
嫌味たっぷりで僕の顔を見た兄ちゃん。
「いいじゃん!もう昔の事はっ」
「そこで心優しい兄ちゃんは、各教授の所へ事情を話に行き、前期の出席は……良く聞けよ……チャラにして貰った」
「マジ!今回は補講はなし!?」
「ああ。前期に受けた小テストと後期の成績で考慮してくれるそうだ」
「兄ちゃん愛して……」
「けどテストを受けないで何もしないのもまずいからって言うんで……」
「愛、愛して……」
「課題を……な」
「嘘ん……どれくらい?」
「聞きたいか?」
「どうだろう?」
「やめとくか?」
「どうしよう!?」
「……今はやめておけ……まあ、成せばなるだ」

……一体どれだけの課題が!?
諦めていた進級に希望が見えたのだけれど……ここは喜ぶべきところだと言う事も分かってはいるのだけれど……。
兄ちゃんが頑張って交渉してくれたことは重々承知しているのだけれど……。
『もうちょっと頑張れなかったの!?』と思ってしまう自分が我ながらズーズーしいと思う。
贅沢な悩み。贅沢な望み。そんな望みを持てるようになった自分が嬉しかった。
とは言っても……。

「退院予定日、伸びないかなぁ?夏休み中もずっと入院してたって事にして……」
「悪い。退院予定日が記入されてる診断書。さっき貰って来たんだ」
「何で!?どうしてそんな余計な……」

失言!

次の瞬間、兄ちゃんの顔が鬼の形相に豹変。僕の両頬っぺを思い切り引っ張りました。
「余計な!?どの口が言う!?この口か!?学校でも異例の処置なんだぞ!!俺がどれだけ苦労してっ……」
「ほへんははーーい!」(←ごめんなさーーい!)
「夏休みは忙しくなるぞ。って言うか、お前に夏休みはない!あっと言う間に秋だ」
「そんな量なの!?」
「……お前なら出来るよ」

そう言ってほほ笑んだ兄ちゃんの顔は、日差しをいっぱいに受けてとても眩しかった……。

更新日:2010-07-30 17:36:58

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