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 そして、何事もなく朝陽は昇り、朝霧の中、二人の拝み屋は車寄せに立っていた。
「では、今日中に報酬の振り込みはしておきます。ありがとう」
 太一郎が、咲耶に手を差しのべる。しっかりと握手をして、にこやかな笑みを浮かべた。
「噂に違わぬ腕前でした」
「恐縮です」
 紫月とは握手を交わさない。交渉役は咲耶の方なのだから、それは当然なのかもしれないが。
 斉藤の運転する車が、彼らの前に横づけされる。
 こうして、死霊退治の仕事は幕を下ろした。

 自宅まで電車で数駅程度の場所で車から降ろして貰う。
 斉藤とも短く挨拶を交わし、また別荘へとんぼ返りする彼を見送って、咲耶は紫月に向き直った。
「俺はちょっと用事があるから、先に帰ってろ。ひょっとしたら、一晩かかるかもしれない」
 素直に頷く紫月を認めて、足を踏み出す。
「俺がいなくてもサボるんじゃないぞ。あと、ちゃんと食ってちゃんと寝ろよ!」
 指をさして、脅すように言い残していった少年を、複雑な瞳で紫月は見つめていた。

 玄関の扉を閉めて、大きく息をつく。
「お帰りなさいませ」
 二体の使い魔は、揃って紫月を出迎えた。
「ただいま。……トゥキ」
 小柄な老人は、名を呼ばれて深々と頭を下げる。
「杉野の、大学生だった頃の所有物は判るか?」
「わたくしは、その頃お仕えしてはおりませなんだが、調べればある程度は」
「頼む。奴の書いたもの、読んだもの、その頃の写真があれば出してきてくれ。至急だ」
 蛇蝎の如くに嫌っていた相手へ向けられた関心に、なにがしか思うところがあるのかもしれないが、老人は恭しく一礼して姿を消した。
 カルミアへ鞄を手渡し、部屋の奥へと進む。トゥキが必要なものを探し出すまで、十数分程度だろう。焦ることは、ない。


 どうやら、自分で言った通りに、昨晩は咲耶が戻った気配はなかった。
 翌朝、真面目にランニングから戻ってきた紫月に、扉の前で待ちかまえていた咲耶は宣言した。

「旅行に出るぞ。すぐに用意しろ」

「……君はいつも突然だな……」
 呆れたように呟く主に同調するように、足元で茶色の子犬が尻尾を軽く振った。

更新日:2010-07-25 16:38:04

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