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義父の秘密


啓祐が、会社の前を帰宅しようと歩いていると
目の前で、黒塗りの高級車が、停まった。

窓を開けて中から、上品な紳士が、声を掛ける。
「啓祐君、君、これから何か、予定は、あるのかね?」

「専務、いいえ、真っ直ぐ帰るつもりですが・・・」

「それじゃあ、ちょっと付き合わないか?
たまには、いいだろう。男同士で食事するのも」

「はい」ドアが、開いて、啓祐は、車に乗った。

この紳士は、啓祐の会社の専務でもあり
啓祐の妻 貴子の父親でもある。
こんなふうに、食事に誘われるのは、珍しい。

貴子は、一人娘で、お互いの家をよく行き来している。
改めて、ふたりで、しかも外で食事をしようと言う。

啓祐は、少し、警戒していた。
そんな事は、意に介する様子もない義父。

着いたのは、料亭。運転手に、一言二言告げて
「さぁ、上手い酒でも飲もうか」と先を歩く。

個室に通され、向かい合って座ると女将が、挨拶に来た。
「いらっしゃいませ。よくおいでくださいました」

「きょうは、娘婿と男2人で、上手い酒でも飲もうと思ってね」

「左様でございますか。では、お料理の方は、どう致しましょうか?」

「任せるよ。板さんのお薦めを貰おうか」

「承知致しました。お酒は、いつもので宜しいですか?」

「あぁ、それでいいよ」

女将は、笑顔で障子を閉めた。

当たり障りの無い話をしていると
「失礼致します」とお酒と料理が数品、運ばれて来た。
「さぁ飲もうか」グラスに冷酒が、注がれた。

料理も酒も美味しいものだったが
啓祐は、義父の心を推し量りかねていた。

料理も調い、上手い酒で気分も良くなった頃、義父が、話し始めた。
「私は、偉そうに説教するような立派な人生を歩いて来た訳じゃない。
貴子も、我が儘に育ててしまって君には、申し訳なく思っているんだが」

「どうされたんですか?」

「啓祐君は、何歳になった?」

「35歳になりましたが・・・」

「丁度、啓祐君くらいの頃だな・・・。
私には、妻以外に、好きな女性が、2人居た」

「えっ?お義父さんが、ですか?」

「あぁ、私も若かったからね。今となっては、良い思い出なんだが」

更新日:2010-08-16 10:17:17

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