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◇9月17日 14:57 ~実況見分~
――先の会話に挙がった通り、この旧校舎の理科室の窓の外には、旧校舎と体育館とを連絡する通路の屋根があり、窓から飛び降りても怪我をする事はない(屋根が老朽化していて、飛び降りた拍子に穴が開いたりしなければの話だが)。
その通路は旧校舎が使われなくなって以来、旧校舎側、体育館側のどちらの出入り口も閉鎖されてしまったため、今は屋根だけが無意味に存在している状態なのだが――
「う……嘘だろ……?」
キリムが力強い足取りで理科室に入るのを、事態を理解した俺も慌てて追う。
まだ、単に俺が目を離した隙に死角に隠れただけという可能性もあったから、どんな小さな変化も見落とさないように教室中に目を配りながら、念入りに古井戸先生の姿を探した。
一方でキリムは古井戸先生の姿を探そうとはせず――教室の窓に近付いて声を上げた。
「……鍵が閉まってる。…………これこそが、完全密室。ゼンカ、そろそろ答え合わせをしようか。完全なる密室から人間が蒸発する、トリックの真実を――」
「待て待て待て……、何が何だか……ふざけんな、こいつはさっきの、30年前の蒸発事件とはワケが違う……!」
理科室内は、普通の教室とは違い実験用の大きなテーブルが6つと、それの2倍くらいの大きさの教卓が1つ置かれていて、死角が多い。
それから、体育館側には普通の教室と同じように、一面に窓が並んでいる。
しかしこの旧校舎を使わなくなった直後に体育館が増設されてしまったため、今は閉塞感を感じる景色しか見ることが出来ず、日当たりも悪い。
教壇側には大きな黒板と、その横には薬品などを保管する準備室の扉があったが、どういうわけかこちら側からガムテープで封印されていた。
もし古井戸先生がその中にいるのなら、ガムテープがこちら側からキッチリ貼られているのはおかしい。……何らかの方法で準備室の中からガムテープを貼り直した可能性もあるが……。
俺はまず出入り口付近から目を離さないように視界の端で教室全体を睨みながら、自分が入ってきた引き戸を閉めた。出来る限り慎重に動かしてみたが、どうやってもキュルキュルカタカタという鳴き声染みた音が上がってしまう。即ち誰かがここから出ようとすれば、音が出て分かるという事だ。
教室の反対側にはもう一つ同じ形式のドアがあったが、そちらは既に閉まっているのが確認できた。
念のため開閉を確認し、やはり誰かが出入りすれば音が出るであろう事を確認した。
これで、正常な出入り口からの脱出は、完全に不可能だ。
残るは窓だが、全ての窓に内側から鍵が掛かっていた事がキリムによって示されている。
つまり窓から脱出するのも不可能だったという事になる……が。
「死角が多いんだ。どっかに隠れてるかも知れないだろ……!」
どんな理由があってそんな事をするのか解らないが、上等だ。
こうなったら徹底的に調べてやる……!
「解った。まだ隠れている可能性もあるし、それを潰さないとね……」
俺とキリムは手分けをして、大きな机の下にある棚の扉を全て開いていった。
この教室で人間が隠れられる場所など、そこしかない。
ついでに準備室の扉を改めて間近で確認したが、その時俺の目にトリックでは誤魔化しようのない封印が見えた。
「蜘蛛の巣か……」
ガムテープを貼り直す手段はあっても、蜘蛛の巣を修復するトリックなんて絶対に存在しない。
つまり古井戸先生はこの扉には触れていない。触れたとしても、開いてはいない――間違いなく。
素人目にも解るように「準備室の扉」という脱出ルートを断ってくれた蜘蛛の巣に感謝しつつ、改めて教室内を徹底的に探し始める。
だが見付かるのは誰かが置き忘れた消しゴムや、折れた鉛筆、シャーペンの芯、不届きな落書、ノートの切れ端、謎のビニール袋、どういうわけか乾電池、プラスチックの破片、新聞紙の燃えカス……要するにゴミばかりだった。
ついには引き出しの中まで漁り出す俺であったが、冷静に考えて人間一人がそこに納まるわけがなかった。馬鹿か俺は。
――先の会話に挙がった通り、この旧校舎の理科室の窓の外には、旧校舎と体育館とを連絡する通路の屋根があり、窓から飛び降りても怪我をする事はない(屋根が老朽化していて、飛び降りた拍子に穴が開いたりしなければの話だが)。
その通路は旧校舎が使われなくなって以来、旧校舎側、体育館側のどちらの出入り口も閉鎖されてしまったため、今は屋根だけが無意味に存在している状態なのだが――
「う……嘘だろ……?」
キリムが力強い足取りで理科室に入るのを、事態を理解した俺も慌てて追う。
まだ、単に俺が目を離した隙に死角に隠れただけという可能性もあったから、どんな小さな変化も見落とさないように教室中に目を配りながら、念入りに古井戸先生の姿を探した。
一方でキリムは古井戸先生の姿を探そうとはせず――教室の窓に近付いて声を上げた。
「……鍵が閉まってる。…………これこそが、完全密室。ゼンカ、そろそろ答え合わせをしようか。完全なる密室から人間が蒸発する、トリックの真実を――」
「待て待て待て……、何が何だか……ふざけんな、こいつはさっきの、30年前の蒸発事件とはワケが違う……!」
理科室内は、普通の教室とは違い実験用の大きなテーブルが6つと、それの2倍くらいの大きさの教卓が1つ置かれていて、死角が多い。
それから、体育館側には普通の教室と同じように、一面に窓が並んでいる。
しかしこの旧校舎を使わなくなった直後に体育館が増設されてしまったため、今は閉塞感を感じる景色しか見ることが出来ず、日当たりも悪い。
教壇側には大きな黒板と、その横には薬品などを保管する準備室の扉があったが、どういうわけかこちら側からガムテープで封印されていた。
もし古井戸先生がその中にいるのなら、ガムテープがこちら側からキッチリ貼られているのはおかしい。……何らかの方法で準備室の中からガムテープを貼り直した可能性もあるが……。
俺はまず出入り口付近から目を離さないように視界の端で教室全体を睨みながら、自分が入ってきた引き戸を閉めた。出来る限り慎重に動かしてみたが、どうやってもキュルキュルカタカタという鳴き声染みた音が上がってしまう。即ち誰かがここから出ようとすれば、音が出て分かるという事だ。
教室の反対側にはもう一つ同じ形式のドアがあったが、そちらは既に閉まっているのが確認できた。
念のため開閉を確認し、やはり誰かが出入りすれば音が出るであろう事を確認した。
これで、正常な出入り口からの脱出は、完全に不可能だ。
残るは窓だが、全ての窓に内側から鍵が掛かっていた事がキリムによって示されている。
つまり窓から脱出するのも不可能だったという事になる……が。
「死角が多いんだ。どっかに隠れてるかも知れないだろ……!」
どんな理由があってそんな事をするのか解らないが、上等だ。
こうなったら徹底的に調べてやる……!
「解った。まだ隠れている可能性もあるし、それを潰さないとね……」
俺とキリムは手分けをして、大きな机の下にある棚の扉を全て開いていった。
この教室で人間が隠れられる場所など、そこしかない。
ついでに準備室の扉を改めて間近で確認したが、その時俺の目にトリックでは誤魔化しようのない封印が見えた。
「蜘蛛の巣か……」
ガムテープを貼り直す手段はあっても、蜘蛛の巣を修復するトリックなんて絶対に存在しない。
つまり古井戸先生はこの扉には触れていない。触れたとしても、開いてはいない――間違いなく。
素人目にも解るように「準備室の扉」という脱出ルートを断ってくれた蜘蛛の巣に感謝しつつ、改めて教室内を徹底的に探し始める。
だが見付かるのは誰かが置き忘れた消しゴムや、折れた鉛筆、シャーペンの芯、不届きな落書、ノートの切れ端、謎のビニール袋、どういうわけか乾電池、プラスチックの破片、新聞紙の燃えカス……要するにゴミばかりだった。
ついには引き出しの中まで漁り出す俺であったが、冷静に考えて人間一人がそこに納まるわけがなかった。馬鹿か俺は。
更新日:2010-07-12 23:29:24