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第四章

翌日、取材のつもりで、一人で街へ出た。
『最愛の人』をテーマに書くのなら、デートスポットを回ってみようと思いついたのだ。
家の近くしか行ったことがなかったので、わたしの中ではかなりの冒険だったけれど、麻由美と会って少し気持ちが落ち着いたのもあって、行動的になっていた。

幾つか電車を乗り継いで、海が見えるアウトレットモールに着く。
お腹が空いたのでファーストフード店で軽い食事をし、店舗を見て回る。
和樹とは、お互いの部屋で会うのがほとんどで、デートらしいデートをしたことがないし旅行も一度しか行ってない。
こうして広々とした施設の中を歩き回っていると、今までそれが全てだと思っていた和樹との世界が、ちっぽけに思えてしまう。

アクセサリーショップに入って、付き合い始めた頃、和樹が初めてくれたプレゼントを思い出す。
おそろいのリングが欲しいとねだるわたしに「意味のあるリングをいつかあげるから、その時までとっておこう」と和樹が言い、買ってくれたピアス。
そのピアスは今でも特別な時だけ着けるようにしている。
腕を絡めて歩くカップルを見ていると、和樹との思い出が否応なく鮮やかに蘇る。
冷たい飲み物を買い、海の見えるテラスで休憩しながら、和樹のことを想った。


なんて子供じみた馬鹿なことをしてしまったんだろう。
素直に会いたいと言えば、和樹は喜んでくれたに違いないのに。
麻由美に嫉妬なんかして、和樹を傷つけてしまった。
今晩にでも電話して、この前の電話のことを謝ろう。
本当は家の前まで行ったんだよっていったら、驚くかな。
馬鹿だなぁってあきれるかもしれないから、やっぱり内緒にしようかな。
離れていたって、わたしの心は和樹のものだし、和樹もきっとそうだ。

そんな風に、今日は信じることができる。
二人の世界を、少しずつ広げて行けばいい。急がなくても、きっとわたしたちなら大丈夫。
今この瞬間、一緒にいなくても、気持ちが繋がっていれば二人の未来は確かにあるはずだ。

更新日:2010-07-07 18:46:20

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