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失われる場所


なんとなく惰性で
寂しい誕生日も終わり
だけど平穏に過ごしていた
もうすぐ春が来るかも…という時。

「どういうことですかっ?!」

所長から会議室に呼ばれた市原さんの大きな声が
営業所に響いた。

その日はとても天気が良く
ぽかぽかとしていて
もうすぐ上がる時間だなぁなんてのんびりとしていたら
睡魔に襲われかけていたのに
その声で一気に目が覚めた。

『……何?』

閉められた会議室のドアを見て呟く。

こんな時に限って
今ここには私しかいない。

普通、ではない。

しんとした室内で私は耳を澄ませた。

「……そんな突然…」

滅多に声を荒げない市原さんが
私の眠気を覚ます程の声を出すという
只事じゃない空気が
ドアの向こう側から漂ってくる。


更新日:2009-08-24 01:15:49

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