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Ⅱ 軍神

ここは、首都にある総統官邸の廊下。
仕立ての良い立派な軍服の男が、二人の部下と共に総統の執務室から出てきた。その面持ちは、暗く厳しい。
彼はついさっき、この国の最高権力者ロメル総統に、甚だ芳しくない報告をしたばかりだった。
通りがかった同僚が声を掛ける。
「グルタス将軍、総統(の機嫌)は?」
「いい訳ないだろう」
彼は振り向くと、苦虫をつぶしたような表情で答えた。
「確かに、一個師団が全滅したんだからな……今度の奴は、相当らしい」
「どうせ奴の狙いは自分なのだから、それよりも我々はレジスタンスの方を何とかしろと、総統はおっしゃられていたがね」
「なるほど、まあ今度の奴も“軍神”殿がカタをつけるんだろうが……」
同僚が言うと、
「ああ、おそらく」
グルタス将軍は頷いた。


40代半ば位の、黒褐色の髪にヒスイ色の瞳をした、なかなか品の良い顔立ちをした男……彼が、この軍事国の総統ロメルだった。
彼は先程、側近のグルタス将軍から甚だ芳しくない報告を受けたばかりだった。
厳しい顔つきでしばらく押し黙っていたが、
「……また、性懲りもなく来やがる」
ふと、苦々しそうに呟く。
現在でこそ、独裁者・暴君などと隣国や国内に潜伏する反政府勢力(レジスタンス)の連中に言われ恐れられている。しかし彼は、かつて愛国心もあるこの国の英雄だった。
もともとこの国は、国土の殆どが荒涼とした赤土に覆われた、とても貧しい国だった。
だが半世紀ほど前、この耕作に一切適さない痩せた大地に、新しい鉱物“ウラトニウム”の原料となる鉱脈があることが発見されて以来、状況は一変した。
それは、それまで続いてきた石油一辺倒だった世界のエネルギー事情を大きく変えるものだった。
精製を繰り返し、純度100の純正ウラトニウム……橙色にうっすらと輝くその鉱物は、僅かな量でほぼ半永久的にエネルギーを発し続けるのだ。しかも、放射能のような副作用も一切無い。
唯一の問題は、その有り余るエネルギーを制御する加減の難しさであるが。米粒ほどの塊でも、ほんのちょっと振動を与えただけで、大爆発を起こしてしまう。だがそれも、技術革新により解決された。

更新日:2010-07-07 09:31:21

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