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どれくらい時間が経っただろう。
辺りはとても静かになった。
風が吹いている。時折、赤い砂埃がたった。
少女の足元には、政府軍の精鋭たちの死体が転がっていた。
歩き出そうとする少女に、地雷原から戻った少年は呼びかけた。
「ねえ、きみ。待ってよ!」
振り返った少女の髪が、ふと風に靡いた。
その時既に、彼女の髪は少年と同じ黒髪に変わっていた。銀のボディースーツも黒になっていた。
つぶらな大きな黒い瞳の、目鼻立ちのハッキリした、ちょっと気の強そうな感じの女の子だった。いや、彼女が人間でないことは、少年にも分かっていた。
「きみ、アンドロイド?」
「……」
少女は何も答えなかった。
少女の額にある、透き通った水色のクリスタル。
確か、隣の大国が最高の遺伝子技術と機械工学、テクノロジーを駆使して造りだしたという、半生身・半機械の戦闘用アンドロイド。彼らは戦う際、内臓された“次元転換装置”に収納された武器を、瞬時に出すことが出来る。
その人間離れした強靭的な生命力と卓越した戦闘能力……高性能アンドロイドは機械ではない人工脳を持っている。創造主である人間を遥かに凌駕した能力を持つ彼らを制御する為に、そのクリスタルは取り付けられている。
大人たちがそんな話をしているのを、少年は聞いたことがあった。彼も実際に本物のアンドロイドを見たのは初めてだったが。
少女に見詰められて、少年はなんとなく彼女が“機械”ではないような気がした。
「……助けてくれて、ありがとう」
「別にワタシは、アナタを助けた訳じゃない」
彼女の声は、普通の少女のものと何ら変わりなかったが、口調は無機質な感じだった。
「ボクは、アキト。アキト・リョーガ。……きみの名前は?」
少年は彼女に笑顔を向けると尋ねた。
「……」
少女は黙っている。
でも、アキトは諦めなかった。
「黙っていないで、教えてよ。命の恩人の名前ぐらい知りたいじゃん」
努めて陽気そうに明るく振舞う少年に、彼女も根負けしたのか、
「……ヨーコ」
小さく呟いた。
「ヨーコ、いい名前だね。じゃあ、一緒に行こう」
「何故? ワタシは、アナタと一緒に行くつもりはない」
アンドロイドは冷たく無感情に言ったが、
「だって、きみは都に行くんだろう? 一人よりも二人の方がいいよ。それに、ボクも都に行くんだ。そこに叔父さんがいるからね」
アキトは彼女と一緒に行こうと、心に決めていた。どうしてもそうしたかった。
アキトは彼女がこの国に来た理由を知っていた。これも大人たちが話していたことだけど、隣の大国はこの国の総統暗殺の為に、これまで何体かの戦闘用アンドロイドを差し向けてきたらしい。でも今のところ生憎、その目論見は達せられないでいる。
自分の家族を含め村人たちを皆殺しにされアキトは、その仇を何が何でも取りたいと決意していた。
彼女の暗殺の標的も、アキトの仇も同じだった。この村の殲滅を特殊部隊に命じたのは、この国の独裁者・ロメル総統なのだから。

更新日:2011-08-14 17:01:21

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