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翌朝、数人の執行委員と警備員たちが、稲垣博士の研究所の扉の前に立った。
先頭の執行委員の一人が、
「ドクター・イナガキ、我々は連邦政府最高議会の決定に従い、『ヨーコⅥ』の破棄処分の執行に来た。速やかに、我々の指示に従うように。……ドアを開けなさい」
何度か呼びかけをしたが、返事は無かった。
彼らには、強制執行の権限がある。
後ろの武装した警備員が、扉をこじ開けるために、一歩前へ出たときだった。
バン! ……と、まるで銃声が扉の向こうから聞こえたような気がした。
「早く、開けるんだ!」
執行委員が指示して、警備員が強引にその扉を開いた。
一同は、息せき切って中へ入る。
「……」
彼らが目にしたのは、空になった特殊強化プラスチックケースの台と、その脇で拳銃をこめかみに当てて自殺している稲垣博士だった。
おそらく、自殺する前に博士がアンドロイドの額から取り外したのだろう。台の上には、水色のクリスタルが光っていた。
そして、開いている天井の通気孔。
『ヨーコⅥ』は、二度と捕まることはなかった。


~終~

更新日:2010-07-15 22:53:18

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