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三人のお姫様とさびしい幽霊 4

 石造りの暗い塔、屋上階の部屋。
 三人のお姫様達が幽霊退治に来ました。
 ところがそこには誰もいませんでした。
 ただ、三女ののっち姫だけは……。


「のっち姫、そこには誰もいませんよ」あ~姫が震える声で言いました。「冗談はおよしなさい。そんな事で私たちを脅かそうなどと」
「へ? 誰が冗談を言っているのです? ここにほら、ひざまずいて……え? なんです?」不意に、誰もいない部屋の隅に向かって、のっち姫が話しかけました。
「どうかしたの?」かしゆか姫が腕組みをして、いらいらした口調で尋ねました。
「……いえ、そうではないと思います。は? そんなことが? へえ?」
「誰と話してるのですか」怪訝そうなかしゆか姫。振り返って、あ~姫にひそひそと、「どうやら冗談でもお芝居でもないようですね」
「それでは……のっち姫にだけ、誰かが見えているのですね」あ~姫もささやき返しました。

「のっち姫、どうやらその元貴族とやらは、あなたにしか見えないらしいですね。何を言っていたのですか」あ~姫が威厳を取り戻し、のっち姫に尋ねました。
「え! お姉様達には見えないんですか? じゃ、じゃあこの人は幽……」ガタン、と音を立てて、顔を引きつらせたのっち姫が、あとずさりました。
「ニブい子……。いいから、何と言ったの?」かしゆか姫が、のっち姫の肩に手をかけました。
「それが……恋人がそこにいる、と」そう言って、のっち姫は、あ~姫を指差しました。


 たどたどしいのっち姫の説明を、まとめるとこうです。
『そこにいる男は、遥か昔、この国で男爵の位にあった者で、かつては国中の娘から憧れられたプレイボーイであった。
 だが、ある時。社交界デビューを果たした王女を一目見て、恋に落ちてしまった。
 それから彼は人が変わったように真面目になり、人望を得て、王室に出入りするようになり……王女と相思相愛の間柄になった。
 そして、ついに求婚し、国王陛下に王女の許婚として認めてもらった。
 その矢先。
 かつて遊んでいた頃に、罪な別れ方をした女が、彼と王女に刃を向けて襲いかかるという事件が起きた。
 王女はショックのあまり、城にひきこもってしまい、他の国から来た婿を取り、結婚してしまった。
 彼は自責の念と失恋の悲しみによって、この塔の部屋から飛び降りたのだという』

「そりゃあ、あなたが悪いんです。女の人を大事にしないからです」あ~姫が一刀両断にした。
『そのとおりです。しかし、王女を恋する気持にはいささかの偽りもありませんでした』(以降のっち姫の通訳)
「それはそうと、その王女さまが、あ~姫に似ているのですか?」かしゆか姫が、面白そうに訊いた。
『はい、あまりにそっくりなので、その窓から見て、思わず叫び声をあげたほどです』
「ああ、あの声は、『叫んだ』のですね。私はまた、『うめいた』のかと」
「お姉様、そんな事はどうでもいいんです。もしかしたら、お姉様に似ている姫とは、ひいお祖母様ではないですか? お城の肖像画は、お姉様にそっくりですもの」
「ああ、そうですね、そうかもしれません。しかし、私はひいお祖母様ではありませんし、この方にどうしてあげる事も出来ませんよ」
『お名前はなんとおっしゃるのですか』
「私は、第一王女のアリシアと申します」
『なんですと。……お名前も同じですね。もしやあなたは、あの方の生まれ変わりでは』
「まさか」あ~姫は一笑に付しました。「こう申してはなんですが、あなたは少々未練が過ぎるのでは……」
 かしゆか姫が、急にあ~姫の手を取って、部屋の隅に連れて行きました。
 のっち姫も、興味津々、付いて行きました。
 三人のひそひそ話がつづき、やがて、のっち姫が男に言いました。

「明日の晩、その先代のアリシア姫に逢わせてあげましょう。この国の霊媒師の力を借りて、お姉様の体に先代の霊魂を降ろして、あなたと話す機会をさしあげます。
 そのかわり、気が済んだらあなたは、速やかに霊界にお帰りなさい」




〈つづく〉

更新日:2010-05-28 20:58:32

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