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のっち姫と森の王様 4

 のっち姫の居室の中から、身も世もない悲しい泣き声が聞こえていました。
「うぅぅぅぅぅう、うぅぅぅぅぅぅぅぅう」
 あの、男勝りで勇ましいのっち姫が、子供のようにさめざめと泣いているのです。
 あ~姫、かしゆか姫、そしてお妃様が、耳を塞ぎたい気持で部屋の外に立ち尽くしていました。

 お妃様の部屋で、三人は話し合いました。
「お父様はあんまりです。城の外に出すならまだしも、何もあんな小さな子を、牢に入れるなんて」
 かしゆか姫が、カンカンになってお妃様に訴えました。
「わたくしも、行き過ぎだとは思いますが、とにかく陛下はお怒りのあまり思慮を失っておいでなのです」お妃は、ため息をつきました。
「私の可愛いのっちを、あんなに泣かせて。もう、私はお父様と、口もききたくありません」かしゆか姫は、クッションを壁に投げつけ、蹴っ飛ばしました。
「かしゆか姫、そんなはしたない。何もあなたが、のっち姫の真似をすることはありません」お妃が叱りました。
「あんなにお利口な、良い子でしたのに」
 あ~姫が、ぽつりと口にしました。何事か考えています。
 そして、ゆっくりと立ち上がり、静かに言いました。
「お母様、私は、腹を立てました」

 「お姉様がああなると、もう誰にも止められません」かしゆか姫が愉快そうに言いました。「お母様、覚悟を決めましょう」
「そうですね、では、あなたたちに任せます」お妃は諦めたように言いました。「とにかく、お茶にしましょう」

 そう、日頃穏やかなあ~姫ですが、一度腹を立てると、手がつけられません。怒りの矛先を向けられた者にとって、これほど手強い相手はまたといないのでした。
 王様も悪い相手を怒らせたものです。

「かしゆか姫、何か考えはありませんか」あ~姫が尋ねました。
「ない事もありませんが、かなり際どいですよ。一つ間違うと国の大事になるかもしれません」
「構いません。我が国王が、私的な怒りに任せて、年端もいかない子供を牢に入れる事こそ、恥以外の何ものでもありません。そのような誤りを正すのに、ためらう事はありません」あ~姫の言葉は、鋼のように厳しいものでした。
「ひゃー、これはキビシいなあ。では、こうしましょう」そう言って、かしゆか姫が計画を話しました。

「おまえ、それは!」お妃が息を呑みました。「そんな事をして、無事に済むと思いますか」
「さあ? どうでしょう」とぼけた顔で、かしゆか姫が笑っています。「たまには良いんじゃないですか。女の怖さを、思い知らせても」
「そんな事より、イワンちゃんとのっち姫の気持を考えて、しっかりやらないとなりませんね。では、私はさっそく、大司教様にお会いしてきます。少し遅くなるかもしれません」
 そう言って、あ~姫はさっさとお妃の部屋を出て行きました。
「お姉様は本気のようですね。何の迷いもありませんね」かしゆか姫が、のんきに言いました。「よほどあの子供がお気に入りなんだぁ」
「あなたはどうなんです。どうしてこんな事を?」お妃が優しく尋ねました。
「私は、ただあのお父様をギャフンと言わせるのが面白いから」少し顔を赤らめて、かしゆか姫は「わ、私もちょっと」そう言って、部屋を出て行きました。
「うふふ、さっき『私の可愛いのっち』と言ったのは、誰だったかしらね」そうひとりごちて、お妃もすっと立ち上がりました。

更新日:2010-05-28 21:19:47

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