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のっち姫と森の王様 3

お城に入って行くとき、のっち姫の胸は破裂しそうなほどドキドキしていました。
 小さなイワン王の姿を自分の影に隠すようにしながら、手を引いて、何事もなかったかのように門番の横を通り過ぎました。
 門番が、目も口もあんぐりと開けて、のっち姫の姿を見送りました。

 イワン王はあまりの驚きに、体をカチカチに強張らせ、ぎゅっと握っている手は汗ばんでいました。
 今朝、「私の家にご招待します」とだけ言って、連れてこられたら、何とお城だったのですから、夢でも見ているような気持だったでしょう。

 めざとく見つけたのはかしゆか姫でした。
「あっ! 帰ってきました!」そう言うと、のっち姫の元に駆け寄って来て、肩をつかんで揺さぶりました。
「のっち! 一体どこへ行ってたの! 黙っていなくなって、みんながどれだけ心配したか分かってるの?」
 まるで、目から稲妻がほとばしり出るように、怒りをあらわにします。大の男四人を相手にしても、ものともしないのっち姫でしたが、今は心の底から怯え、しょげ返りました。
「ごめんなさい……」
「あなたね……」腰に手を当て、ため息をついてみせます。じろりと睨み、「大変なことをしたのよ」
 ひえー。怖いよう。のっち姫は、おしっこを漏らしそうになりました。
「あら?」その時、あ~姫のハイトーンな声が響き渡りました。「その可愛らしい子はどなた?」
 あ~姫がにこにこして、走ってきます。イワン王の側にしゃがみ込み、目を見ながら、
「こんにちは、あなたはのっち姫のお友達? よろしく!」そう言って、右手を差し出しました。
 イワン王は、その美しい顔に見とれながら、その手を取り、会釈しながら口づけをして言いました。
「俺……オホン、ワタシは森の国の王、イワンです。美しき姫君にお会いして、コウエイシゴク。どうぞお見知りおきを」
「えっ?」あ~姫は驚き、そして笑いました。「あはははははは! 可愛い! 王様ですって」
 イワン王は心外な、という顔をしました。少し傷ついたようでした。
 いけない! のっち姫は、あせりました。
「お姉様、こちらは本当に国王陛下なのです。どうか失礼のないようにして下さい」必死の形相で、言い募ります。
 察しのいいあ~姫は、ああ、と頷いて、
「これは私としたことが、たいへん失礼を致しました。どうかお許し下さいまし」そう言いながら、ドレスをつまんで膝を折り、胸に手を当てました。「陛下、心よりお詫び致します」
「いや、いいんだ。こんなカッコウだからな。許す、許すゾヨ」イワン王は鷹揚に言い、反っくり返りました。すっかり気持よくなったようです。
「陛下は、お忍びなのです。どうか、おもてなしをして差し上げて下さい」のっち姫は、あ~姫、かしゆか姫に目配せしながら、言いました。
「分かりました」ポンポン、と手を叩き、侍女や召使いに命じました。「では、おもてなしのご用意を。昼食会がよろしいですね。お庭にお席をしつらえて下さいな」
 柔らかい物言いですが、有無を言わせぬ威厳があり、周りの者たちは目が覚めたように動き始めました。
「では、陛下、お召し替えを」そう促され、侍女に案内されながら、イワン王は奥の間へと消えて行きました。
「のっち姫、何か事情がありそうだから、今は勘弁してあげます。一つ貸しですよ」かしゆか姫が、仕方ないなあ、という感じで微笑みました。かしゆか姉様は、きつい事言っても、本当は優しいんだよね。のっち姫はそんな姉様が大好きでした。
 で、ほんとに怖いのは……。
「のっち姫、それとこれとはお話が別です。あとで、私の部屋に来て下さいね」あ~姫が、にっこり笑って、のっち姫の肩を扇で、ポン、と叩きました。
「し、し、失礼しますぅ」そう言い残し、のっちは走って逃げ出しました。
 ご不浄(トイレ)の方へと、全速力で。



 

更新日:2010-05-28 21:18:26

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