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のっち姫と森の王様 2

 三人の追いはぎども……背が高く頭の毛を剃った男は斧を、太っちょはこん棒を、そして、痩せぎすの男は短剣を構えています。
 のっち姫は、抜いた剣をゆっくりと構えるかと見せ、いきなり彼らに向かって跳びました。
 太っちょの腹に足を掛け、こん棒を蹴り落とし、隣にいた痩せぎすの男の顔を踏み台にして、宙高く飛び上がります。
 その素早い動きに、男達は目をくらまされ、のっち姫を一瞬見失いました。
 でくの坊のごとき三人の間に降り立った姫は、思うさま剣を踊らせました。
 さっと離れた時には、三人の服の前面はズタズタに切り裂かれ、太っちょのズボンは足下に落ちている始末でした。
 三人の洋服はボロクズのようでしたが、その下の肌には毛筋ほど傷もついていませんでした。
 太っちょがあわててズボンを引っ張り上げます。
 短剣を持った男の鼻の穴に、鋭い剣先を差し入れた時にも、のっち姫の息は少しも切れていませんでした。
 その恐るべき手並みに、男達はぞっと寒気を覚え、魂を抜かれてしまいました。
「このまま、森を出て行きなさい。そうすれば、命ばかりは助けてやる。さもなくば……」
 その時。
「あぶないっ」という声がしたかと思うと、のっち姫の後ろで誰かが「ぎゃっ」と叫びました。
 ハッとして振り向いたのっち姫はとっさに、そこにいた男のみぞおちに剣の柄を突っ込み、蹴り倒しました。男はどさりと倒れ、気を失いました。
「不覚。もう一人いたのか、気が付かなかった」
 三人の方に向き直ると、一目散に逃げて行くところでした。
「薄情な奴ら、仲間を見捨てて逃げて行くとは」のっち姫は、危うく挟み撃ちにされるところだった、伏兵の顔をしげしげと見ました。
 その顔には、奇妙なものがくっついています。
 見た事もないほど大きな、「テナガエビ」でした。

「いやあ。お前、強いなあ。めちゃくちゃ強いな」水の中から、イワン王が川岸へと上がってきました。
「陛下、このエビは、陛下が?」
「そうだ、今日の晩飯にしようと思って捕まえた。そしたら、このワルモノがこっそり後ろから、お前をやっつけようとしてた。だから、投げつけてやった。あははははは」イワン王は嬉しそうに笑いました。
 のっち姫は、イワン王の前にひざまづいて、頭を下げました。
「陛下、危うきところをお救い下さいまして、ありがとうございます。陛下は私の、命の恩人です」
「あははは、お前こそ、あの恐ろしい奴らをあっという間にやっつけたじゃないか。すごかったな。剣のタツジンだな。あ、そうだ!」小さな王様は、パンと手を叩きました。「お前、俺のケライになれ」
「私を臣下に? はっ。有り難き幸せ」のっち姫はいささか悪のり気味に、答えました。どうせまだ、お城に帰る勇気はありません。この、可愛らしくも勇敢なイワン国王陛下とともに、森で暮らすのも悪くないな……そう思ったのでした。
「お前、名前はなんというんだ?」
「私は、の、のっちと申します」
「おかしな名だな。まあいいや。よろしくな」

更新日:2010-05-28 21:16:54

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