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のっち姫と森の王様 1

 小さな国の、大きな森の中。
 馬に乗ったこの国の王女様、三女ののっち姫が、途方に暮れていました。

 約束の舞踏会、しぶしぶ準備はしたものの、当日になって、やっぱり逃げ出して来てしまったのです。
 とっさに、いつも森で狩りをするときの格好で、ろくな身の回り品も持たずに、飛び出してきたのっち姫。
 どうするという当てもなく、森をさまよっているうちに、すっかり迷ってしまいました。

「困ったなぁ、どうしよう……。今頃、お城では大騒ぎだろうなあ。帰ったら怒られるなあ。お母様やお父様は、優しいからいいけど、お姉様達が……」

 考えただけで、オソロシサに身ぶるいするのっち姫です。

「ここはどこなんだろう。いつも狩りをする方に逃げるとすぐ捕まっちゃうからって、変な方に来ちゃったからなあ。……おなか空いた……」

 のっち姫は、馬を降り、近くの木立に馬をつないでうんとノビをしました。半日近く馬に乗っていたので、さすがにくたびれたのでした。
 馬は静かに足下の草を食べています。のっち姫は、よく頑張ってくれた馬の首を、優しく掻いてあげました。馬は「ん?」という感じで、ちらりとのっち姫を見て、また草に夢中になりました。
「そんなに草、おいしい? 私も何か食べたいなぁ」
 辺りを見回します。ありましたありました。美味しそうな野いちごの鮮やかな赤い色が、草むらの中に可愛らしく見えていました。
 思わずつばを飲み、のっち姫はその木いちごに手を伸ばしました。
 その手に、縄が巻き付きました。
「えっ?」のっち姫はあっけにとられました。
 グッと引っ張られ、のっち姫が転びます。
 驚きのあまり、呆然としたのっち姫は、とっさに身動きもできませんでした。
「ヨの国に、むだんで入ってきたソナタは何ものじゃ」
 振り返ると、木立の間から、一人の少年が姿を現しました。
「は?」のっち姫の口が、ぽかんと開いたままになりました。

 その少年の格好と来たら、奇妙きてれつとしか言い様がありませんでした。
 なめし皮で出来たチョッキを素肌にはおり、縄でお腹の辺りをしばっています。
 ぼさぼさ髪の頭には皮のベルトを巻いて、七面鳥の羽を何本も差しています。
 ツギだらけのズボンはダボダボで、今にもずり落ちそうになっているのを、糸のようにすり切れたズボン吊りがかろうじて救っていました。
 靴をはいてない足にどういうわけか、靴ひもに見せかけたつもりか、ツタが巻き付いていました。
 とどめは、顔です。
 派手な色を着けた草の葉で作った仮面を付けていて、どこか東洋の部族の、首長か何かのようでした。
「すごいなあ」のっち姫はのんきに感心していました。「面白い服ですね」
「無礼もの! 俺は、この国の王さまだぞ!」少年はいきり立って怒鳴りました。
 のっち姫は、面白くなりました。小さな王様のイバリんぼ振りが愉快だったのです。
「は、これは失礼致しました。私はただの旅の騎士でございます。偉大なる王にお目通りが叶いまして、恐悦至極に存じます」大真面目な顔で、のっち姫がひざまずき、騎士としての礼を尽くしました。
「ほう、ソナタ、騎士か。ドウリで剣を持っていると思った。こんなところで何をしている」
「は、狩りに出ていたのですが、道に迷いました。ここはなんというお国ですか」
「ここは、えーと、森の国だ。俺はここの王、イワンだ」
「イワン王、よろしかったら、この縄を……」
「うーん、いいだろう、縄を切ってよし」
 小さな王様イワンの許しを得て、のっち姫は手に巻き付いた縄を、剣で切りました。
 この王様、のっち姫が王女であることはおろか、女であることさえ気が付かず、言葉通り騎士だと信じたようです。
 この子、威張っているけど、素直ないい子なんだ。のっち姫はすっかり気に入ってしまいました。

 イワン王に連れられて、のっち姫は馬を引き引き、森の中を進みました。
「王、どこかに川かなにか御座いますか。馬が喉を乾かしているようなので」
「お、そうか、よし。すぐ近くに川がある。俺も喉が渇いた」
 そう言って、イワン王が駆け出しました。あわてて、のっち姫と馬もあとを追いました。

更新日:2010-05-28 21:15:27

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