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永遠の奏  『羽根』 6


それはまるでホラー映画でも見ているような感じがした



自分の足が・・




そこにある感覚はまるで本当の事のような気がしなかった



足の指を動かそうとして頭で思っても



そこには膝から下の無い脚があるだけだった





「嘘だろ・・これは夢だろ?・・嘘だ・・嘘だ・・」







『嘘だ―!!』






あまりにも大きな衝撃だった



事故にあって脚を失うって事は他人の話としては色々考えれたが



この時の俺は、それどころじゃ無かった



体の一部が無くなっている現実を全身全霊で否定をしたかった




医者や看護婦が俺の体を押さえつけていた



病室の入り口では連れ戻された花音が泣き崩れていた





『うわぁぁぁー・・』





暴れる俺に注射が打たれた




意識がいつの間にか落ちていくのが分かった



意識を押さえつけられる悔しさもあったような気がする



でも、それ以上にその時にそうしてくれた事に感謝している




そうじゃなければきっと俺は花音を責めたかもしれない
















意識が完全におちた






どの位、眠りについていたかは分からないが



次に目を覚ました時は俺は高熱を出していた



体の節々が痛く左脚が熱く燃えるようだった



心臓の鼓動と同じく脈を打っているような痛みが走っていた




意識が朦朧とする中思い出した




「俺の左脚はもう無いんだ」




意識がかすれていく






それからの病院での生活は思い出したくもない・・



現実を否定し続け



自分の脚を見ないようにした



絶望と屈辱だけだった






あれから数ヶ月が経ち



俺は現実を受け止め始めた






「子供が事故で死ぬよりは良かったんだ」




「俺は脚は無くなったけど生きている」






朝起きてご飯を食べ



何となしに時間を過ごし



昼食を食べ



体に無理のないようなリハビリをする



夕食を食べ



そして寝る






一人で出来る事は上半身で出来る事



本を読んだり



外を眺めたり



食事をしたり



俺は、生きているのか死んでいるのかも分からなく



どうでもいいと思っていた







花音は、どんな時も俺の見舞いに来ていた



それはまるで自分を責めているようにも見えた



俺は殆ど言葉を交わすこと無かった








『永遠、何か読みたい本とかない?』



『・・・』



『小説とか』



『・・無いよ 俺もう寝るから帰ってくれ・・』



『あっ・・うん・・また明日ね・・』



『・・・』







俺はどんな顔して、花音と向き合えばいいのか




どんな顔して話せばいいのか







それすら分からなくなっていた



















更新日:2010-05-18 10:41:41

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