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永遠の奏  『羽根』 9

「花音・・・」




俺が花音に言った言葉



きっと傷ついたに違いない



だけど、これが一番良い方法だったんだ



花音に居てもらえば、俺はきっと彼女に縋るに違いない



そして、花音はそれを感じ義務感で俺の傍に居てしまうのだろう




何が正しくて



何が間違いなのか




そんな事はどうでもよく、目の前の自分の気持ちに押しつぶされそうな気がしてならなかった




屋上の金網越しに見る世界が今まで自分が居た世界だとは信じれない気がした






「フゥー・・」





灰皿に手を伸ばした時、他の人間も灰皿に手を伸ばしてきた




俺は車椅子、灰皿は真横にないと辛い




必然的にその男が視界に入ってきた




今の俺は、他の人間に気を使う余裕など無く、見て見ぬふりをした





『君、足が悪いのか?』




男は話しかけてきた




『・・・』




『聞いちゃ不味かったか・・』




何となく、返事をしてみた





『いえ・・事故で』




『そうか・・』




『お見舞いですか?』




『まぁな・・・』




『ご苦労様です』




『フフッ・・ご苦労様か・・そう見えるのかもな』




『?』




『しかし、病院の中ってのは喫煙する所も決まってて難義やな』




『色んな人が入院してますからね、でも俺はここが好きです』




『空の真下でか・・健康なのか不健康なのかよく分からない行為だけどな』




『確かに(笑)』




その男が、何気に言った言葉だったと思うが妙に可笑しかった




男は俺の膝に掛かるタオルケットを見ていた




『俺、脚、片方ないんです』




『そうなんや・・・命が助かっただけでも良かったやないか』





「見ず知らずの奴にそんな事を言われたくない・・」




『確かにそうだけど、俺はこれから人の手を借りないと何も出来ない生活を死ぬまでしないとダメだ・・・そう思うと、あの時に死んでも良かったって思う』





『そんな事言うなや・・』










『あんたに・・あんたに何が分かるって言うんだよ!』





思わず感情的に言葉が出てしまった






『そやな・・確かにその通りや』




『・・・』




『でもな、生きていると言うことは、それだけで価値があるんや・・・明日があると言う事だからな』




『・・・』





悔しかった・・男の言葉に反論したいのに出来なかった・・





『あっ、やっぱりここに居たんだ』





パジャマを着た可愛らしい女性が男の所に来た





『あぁ・・』





『こんにちは(*´∀`*)』




俺はペコリと頭を下げた





『コイツの見舞いで来てんねん』




『そうですか・・』





『安静にしてなあかんやろ、ちぃ』




『だって、あなたが戻って来ないから』





「この人の彼女かなんかか・・」




『じゃっ、またな』




『はぁ・・』





二人は屋上から消えた





俺はタイヤを回し出口へ向かった





「俺はいつまでこんな所に居なければならないんだろうな・・」





病室に戻ると母親が居た





『永遠、屋上かい?』




『そうだよ』




『タバコなんて止めなさい、体に悪いだけでしょ』





「健康なのか不健康なのかよく分からない行為だけどな」




あの男の言葉を思い出した





『そうだな(笑)でも、いいだろこれくらい』





母親は苦笑いをしながら





『そうね・・でも程々にしてね』





『あぁ・・』








こうして、何気ない一日が過ぎていった



























更新日:2010-05-21 13:01:23

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