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 翌日から、雄吾は学校に来たようだ。
 推定なのは、睦は雄吾と会っていないからだ。
 智樹から『睦の看病ですぐよくなったってノロケてウザい。お前の犬、どうにかしろ』というメールが来たので、智樹と雄吾が学校で言葉を交わしたことはわかった。
 でも、睦は雄吾と顔を合わせていない。
 雄吾お気に入りの喫茶店にもいないし、昼食も学食では見かけない。
 それが一日二日のことならまだしも、一週間となると、完全に避けられていることが睦にもわかった。
 まだ睦の中で結論が出ていないので、取り立てて会いたいわけでもなかったけれど、こうも完璧に姿を消されると、腹が立つ。何も変えなくていいと言ったのは雄吾のクセに、自分ががらりと行動を変えるなんてズルイと思って、ますます腹が立った。
 雄吾と睦が一緒にいないことに、周りの友達も気がついていたが、互いに目配せをするだけで、口に出すことは憚られる雰囲気を睦は漂わせていた。
 とうとう二人の関係に詮索が入ったのは、学食で智樹らと昼食を食べているときだった。
「なぁ、睦、ここんとこ雄吾と喧嘩してんの?」
「別に」
 睦は日替わり定食をつつきながら、智樹に気のない返事を返した。
「どうせ、雄吾に顔見せるなとか言ったんだろう」
 向かいの席から北野がちゃちゃを入れるが、睦はふんと鼻を鳴らしただけだ。
 雄吾と睦の関係を、どんなに説明しても理解してもらえないと思う。第一、どうしたいのか、睦にだってわかっていないのだ。
「今日も二限目が終わったとこで雄吾に飯食いに行こうって誘ったら、コンビニでおにぎり買ってくるってさ。本当に雄吾に何言ったんだよ。凄く落ち込んでるよ」
 穏やかな口調で智樹に言われ、睦は溜息をついた。
 そもそも雄吾が言ったことが発端なのだけど、雄吾の気持ちに全然気づかなかった自分自身の落ち度もある。でも、鈍感な睦も悪かったんだけど、男に恋愛感情を持たれるなんて普通は考えもしないことだから、やっぱり雄吾があんなことを言わなければこんなに悩むこともなかった。
 いろいろ考えた結果、どっちが悪いのかよくわからないというのが結論だった。
 もしかして、雄吾の気持ちに気づいていなかったのは自分だけなのだろうか。
 そうなら、睦一人がバカだったことになる。
 睦は目の前の友達の顔を順々に見た。
「なぁ、雄吾と俺の関係ってどう見える?」
 真剣な顔で睦が尋ねると、智樹は残りの三人と顔を見合わせた。
「どうって……我侭な姫と下僕」
「尽くしているのに見返りはない関係」
「飼い主と犬」
「一方的な搾取」
 口々に言われる言葉に、睦はがっくりと肩を落とす。
「俺、そんなに雄吾を酷い扱いしてるか?」
「酷いっていうか、雄吾に尽くされて当然と思ってるだろ」
「そんなに雄吾が俺に尽くしてるか?全然、そんなこと思ったことないけど」
 睦が言うと、友達が全員顔を見合わせて、信じられないと口走った。
「お前、誕生日にDⅤDボックスもらってたけど、雄吾の誕生日には何かやったのか?」
「誕生日のケーキを指定して買いに行かせただろう。車で一時間かかる店まで」
「バイトの帰りが暗くて怖いからって、毎回、送迎させてるじゃないか」
 言われれば言われるほど、睦は雄吾にさせていたことに気付き、肩が重くなる。次々に明らかにされる自分の傍若無人さに嫌気が差し、とうとうテーブルに突っ伏した。

更新日:2010-05-09 17:52:23

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友情が恋に変わるとき(雄吾x睦)