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小説

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 週が明けた月曜日の昼休み。
 混雑している学食で、睦は雄吾の姿を探していた。
 雄吾に直接会って、あの言葉の真意を確かめたかったのだが、朝から一度も出会っていない。学部が違うので、当然、履修する授業も違っているけれど、入学してから一回も会わないことは今までなかった。
 なのに、今日に限って、雄吾が立ち寄りそうなところを巡っても、彼の姿はない。
 最後の手がかりを求めて、学食を見渡していた睦の顔が、ぱぁっと輝いた。テラス席によく見知った顔を見つけたのだ。
 睦は、雄吾と同じ医学生の元に駆け寄った。
「な、今日、雄吾来てる?」
 突然声をかけられて、ラーメンを啜っていた真下智樹はむせこんだ。
「あ、悪ぃ。でさ、雄吾は?」
 水を飲んで、ようやく口を利けるようになった智樹は、落ち着きのない睦に答えた。
「熱が出たから休むって、今朝、電話があったけど。何?睦は知らないの?」
「……熱?」
 無邪気と評されることの多い睦の顔が険しくなる。滅多にない睦の表情に驚き、智樹はわざと軽い調子で付け加えた。
「午前中の生化学実習で、僕と雄吾がペアになるからさ、それもあってだと思うよ。本当にしんどそうだったし、喋るのも辛かったんじゃないかな。じゃないと、睦より先に僕に電話する理由なんてないし」
 取り繕ってみたものの、睦はぶすっとふくれている。どう言ったものかと思案する智樹に、睦が硬い声で尋ねた。
「雄吾、熱があるって?」
「あぁ、そう言っていた」
「しんどそうな声だった?」
「うん、まぁ、そんな感じの声だった」
 睦は不機嫌な顔で考え込んだ。
 あのことで自分を避けようとしているなら、一発ぶっとばしてやらないと気が済まない。
 こっちを悩ませるようなことを言っておいて、何をしてるんだと腹が立つ。睦は嫌々ながらも学校に来たのに、自分だけ逃げるなんて許せない。
 でも、もし本当に調子が悪いなら、それはそれで心配だ。
 一人暮らしをしているものの、雄吾の家事能力は壊滅的だ。睦が作らなければスナック菓子で食事を済ませてしまう雄吾のことだ、病気のときにまともなものを食べるなんてことはまずない。
 どっちにしろ、雄吾に会うには、雄吾の部屋まで行くしかないようだ。
「ありがと」
 睦は智樹に軽く礼を言うと、あっけに取られている智樹を残し、さっさと学食を出て行った。
 その足で、大学の売店に直行する。
 買うものは決まっている。睦が「病気見舞いセット」と呼んでいる三連プリンとイオン飲料、ゼリー飲料などだ。
 さらに、近くのスーパーで適当な食材も買い込み、睦は雄吾のマンションに向かった。
 通い慣れた道は、ぼーっと考えごとをしていても勝手に足が連れて行ってくれる。
 合鍵で中に入ると、睦は台所にスーパーの袋を置いて、奥の寝室に向かった。
 部屋はむっと暑く、汗と酒の匂いが濃厚に漂っていた。
 顔をしかめながら、睦はベランダの窓を全開にし、空気を入れ替えた。
 そして、ベッドに目を向ける。
 Tシャツにトランクス姿の雄吾が、苦しそうに手足を縮めて眠っている。秀でた額には汗が浮き、前髪がべったりと張り付いていた。
「おーい、雄吾」
 そっと呼びかけ、額に触れ、慌てて引っこめる。
 火傷するほど、熱い。
 早く冷やしてやらないと。
 睦はゼリー飲料を雄吾の額に乗せた。
 雄吾の眉がピクリと動く。苦しそうに刻まれていた眉間の皺が、ゆっくりと解ける。
「ったく、朝のうちに俺に連絡すりゃよかったのに」
 そうしたら、家から保冷剤や風邪薬を持ってきて、看病してやれた。去年の冬に雄吾がインフルエンザになったときと同じように。
『友達だからな』と言ったのに、雄吾と睦の関係は明らかに変化している。
 雄吾が『好きだ』と言ってしまったから、もう今まで通りの関係ではいられないということか。
 何も変わりたくなかったのに、勝手に変わっていこうとする雄吾に、睦は腹立たしさを覚え、雄吾の首筋や頬にペットボトルや三連プリンを次々と乗せた。
「う……ん、く……」
 雄吾の瞼がゆっくりと開く。
 睦はむっとした顔で雄吾を見下ろした。
「何、寝てんだよ」
「あ……え?むつ、み?」
 寝ぼけているのか、熱に浮かされているのか、雄吾が焦点の合わない目で睦を見る。睦はトドメとばかりに、雄吾の顔の真ん中によく冷えたゼリー飲料をベタリと乗せた。
「……冷たい」
 雄吾が苦しそうに呻くので、顔に乗せたあれこれを取り除き、全部、胸の上に乗せてやる。雄吾は困った顔で睦を見上げた。
「……怒ってる?」
「何で、智樹には連絡して、俺には何も言わないんだよ」
「だって、出てくれないと思ったから……」
「馬鹿野郎」
 むかっとして、パイプベッドをガンッと蹴る。雄吾が顔をしかめたけれど、睦は無視して台所に立った。

更新日:2010-05-09 17:46:10

友情が恋に変わるとき(雄吾x睦)