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 たちの悪い冗談にだまされた自分が悔しい。
 それを言い出した雄吾にも腹が立つ。
 どんなに雄吾のテストを心配していたか、一緒に夏休みを過ごすことを楽しみにしていたかを、一番わかっていたのは雄吾のはずなのに。
 後ろから足音が追いかけてくる。
 振り返らなくてもわかる。雄吾だ。
 泣いている顔なんか、見られたくない。
 とっさに睦は、伸び放題の茂みの陰に、身を潜めた。
 が、それも雄吾にはお見通しだった。
 ほとんど探す気配もなく、雄吾は睦を見つけて、抱きしめた。
「ごめん」
「許さない」
「どうしたら、許してくれる?」
「お前、俺を笑い物にしたんだぞ」
「うん……ごめん」
 ぎゅっと抱きしめられると、雄吾の匂いにくらくらする。体の奥が疼き始め、睦は雄吾の胸を押して、体を離した。
「もういい。とにかく、全部合格したんだな?」
 睦が尋ねると、雄吾は深々と頭を下げた。
「これも、睦さまのおかげです。睦さまが食事や家事をすべてしてくださったおかげ」
「感謝してるんだろうな」
「もちろん」
「じゃぁ、八月の末から九月の頭は、開けておけよ」
「八月末から九月頭?」
 雄吾が手帳を広げて、予定を確認し、大丈夫と頷く。睦が手帳をひったくり、予定を書き加えると、雄吾の顔がふわりと紅潮した。
「旅行?俺と睦と二人で?ほんとに、旅行?」
「俺のバイト代で出すんだから、そんなにいいとこは泊まれないけど、文句言うなよ」
「ほんとに、ほんとに、睦と旅行?智樹や北野は抜きで?」
「二人きりが寂しいなら、呼んでやってもいいけど」
「全然!大満足。うわぁ、睦と旅行に行けるんだ。どこに行くの?海?山?観光地?」
「あー、もうくっつくな。家に帰ったらパンフレット見せてやるから」
「ほんとに旅行だ。睦と二人っきりで。やったぁっ!」
 雄吾にすくいあげられ、その場でクルクル回される。もう一度、ぎゅっと抱きしめられると、熱烈なキスをされた。
「ばっ……人に見られたらどうすんだ!」
「大丈夫、どこからも見えないから」
 しれっと言うと、雄吾は睦を抱きしめたまま浮かれて踊る。
 あまりに嬉しそうな表情なので、睦は喉まで出かかった罵倒をぐっと飲み込む。
 雄吾の過去は、過去のこと。
 これから恋愛を始めればいい。
 雄吾がずっと夢見てきた甘い甘い恋愛に、つきあうと決めたのだから。

                                                   <終>

更新日:2010-05-09 18:27:18

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友情が恋に変わるとき(雄吾x睦)