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小説

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 夏休みに入った医学部の校舎で、睦はそわそわと雄吾を待っていた。
 教育学部の睦にとって、医学部の校舎はアウェイだ。
 普段は雄吾や智樹が一緒だから、臆することなく闊歩しているが、一人で目的もなくうろつくのは気が引ける。
「やっぱり、家で待ってたらよかったかなぁ」
 気弱なことを言いながらも、雄吾の部屋で待ちきれなくて、ここまで来てしまったのだから、しょうがない。
 今、雄吾は友達たちと、夏休み前に行われた専門科目小テストの結果を見て回っている。
 各担当教授の部屋の前に掲示された結果によって、補習や追試の有無が決まるという、医学科生にとってはとても重大なことだ。
 つまり、この結果に睦と雄吾の夏の予定も、かかっている。
 不合格科目が増えるほど、雄吾は遊ぶ時間がなくなり、睦のサプライズ計画も危うくなる。 それを避けるために、睦も最大限協力した。苦労が報われるといいのだけど。
 イライラと睦が窓の外を眺めていると、ようやくガヤガヤと賑やかな一団が下りてきた。
 雄吾と智樹、他は顔だけ知っている医学科の学生たちだ。
「どうだった?」
 ぴょこんと睦が雄吾に飛びついた。
 周りの学生たちは大して驚いた様子もなく、口々に言う。
「こいつ、一人だけ仲間外れ」
「そうそう、こいつだけ……なぁ」
「ほんと、残念だよ。お前だけなんて」
「俺たちが充実した夏休みを満喫するのに」
「かわいそうな奴」
 同情する友人たちと眉を八の字に下げている雄吾の顔を交互に見て、睦も不安になっていく。
 智樹の顔を窺っても、智樹も渋い顔でため息をついている。
「えー、じゃぁ、俺の夏休みの計画は?」
「残念だけど……」
 智樹に肩を叩かれて、睦は計画がガラガラと崩れていく音を聞いた。
 雄吾を喜ばせようと思ったのに。
 今年こそは完璧な誕生日にしようと思ったのに。
「何でだよ!お前、すっげー勉強してたじゃん。バイト以外はずーっと分厚い本を広げて、頑張ってただろ。俺だって飯作ったり、洗濯してやったり、いっぱい協力したのに。何で!」
 睦が雄吾に掴みかかっても、雄吾はうなだれて、されるがままになっている。
 何も弁解をしない雄吾に食ってかかっているうちに、どんどん気分が高揚して、睦の目に涙が浮かんできた。
「お前、いくつ落としたんだよ。夏休み、全滅?なぁ、怒らないから正直に言えよ」
 睦が雄吾の服を掴んで、がくがく揺さぶると、不意に背後で変な声を出した。
「ぶほっ……」
 続いて、二人を取り巻くあちこちから、同様の声が上がる。
 顔を背けている雄吾も、口元が奇妙にひきつっている。
 振り返って見れば、必死に笑いをこらえるのに失敗している顔ばかり。
「お前ら……」
 低く唸る睦に、智樹が爆笑しながら言った。
「僕が言ったんじゃないよ。雄吾が、絶対、睦が来てるって言うから、くくっ……それならちょっと驚かせようって、ほんと、僕じゃないよ。雄吾がさ、あははは……」
「ゆぅごぉ?」
 睨み上げると、雄吾はにやけた顔で嬉しそうに笑っている。
「たまには、睦の驚く顔が見たいなぁって、雄吾もノリノリだったからさぁ」
「こいつだけ全科目合格ってずるいじゃん。それも睦のおかげなんて言うし」
 周りの言葉でさらに頬を緩ませる雄吾に、むかっ腹が立ってきた。
「本気で心配したんだからな!夏休みは雄吾一人で寂しく過ごせ!」
 雄吾を突き飛ばして、足早にその場を離れる睦の背中に、笑い声と冷やかしが投げかけられる。睦は手近な角を曲がって、校舎の裏手に逃げ込んだ。

更新日:2010-05-09 18:26:07

友情が恋に変わるとき(雄吾x睦)