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小説

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 のろのろと睦は自転車を漕いだ。日は山の向こうに沈み、ねっとりとした金色の残照が睦を包む。湿気を含んだ重い空気をかき分けるように、睦は力を込めてペダルを踏んだ。
 足を動かしながらも、頭の中には渡部の言葉が渦巻いている。
 自分のせいで雄吾が泣いていた。
 何も考えずにしてきたことで、雄吾を傷つけてきた。
 同じことを好きな人にされたらと想像すると、睦は胸が重くなった。傷つけるつもりはなくても、結果的に傷つけてきたなら同じことだ。知らなかったとは言え、友達だからと勝手に甘えてきた自分に吐き気がする。
 睦が『友達だよな』と言うたびに、雄吾はどんな気持ちで頷いていたのだろう。お前のことを恋愛対象としては好きにはならないと、宣言していたようなものじゃないか。
 渡部が言いたかったことはわかる。今までと同じ関係ではいられないのだ。雄吾が睦に向けている感情が恋愛のそれである以上、受け入れるか拒否するかの二択になる。
 睦は陸橋の上で自転車を止め、線路を見下ろした。どこまでも伸びていく複数の線路。
 どんなに年月が経っても、こんな風に睦と雄吾は並んで走っていくと思っていた。就職とか結婚とか人生の転機が訪れても、二人の関係は壊れない、物理的に距離ができても気持ちは近くにあると思っていた。
 それを睦は『友情』という言葉でくくっていたし、雄吾は『恋慕』からだった。
 それが離れていくかもしれない。西と東、南と北、それくらい正反対の方向を向いて、二度と交わることがないほどに。
 睦は目を閉じ、自分の心に向き合った。
 雄吾と離れたくないのは本音だ。もしどちらかが女だったら、迷わず恋人に選んでいるくらい雄吾が好きだ。
 でも同性という一点だけが引っかかっていた。雄吾と一緒にいることと、恋人になることがどのように違うのか、睦にはわからなかった。
 それを智樹に相談するつもりだったのに、思いがけない展開に頭から飛んでいた。
 智樹と渡部というカップルを目の当たりにして、自分でも意外なほど嫌悪感はなかった。目の前でイチャつかれてびっくりしたけれど、あれくらいなら睦と雄吾だって日常的にしている。
「……なら大丈夫か?」
 雄吾を選ぶか失うかの二択しかないなら、答は一つだ。
 雄吾のいない生活なんて、考えられない。
 今までとすることは一緒で、そこにつける名前が変わるだけなら、実質何の変化もない。何を躊躇うことがあるのだ。
 睦は首からチェーンを外し、重たげにぶら下がる指輪を見つめた。
 彼女のことは大好きだった。その心に嘘も偽りもない。
 でも、彼女といるときも、雄吾を忘れたことはなかった。楽しみや喜びを雄吾と分かち合いたいと、いつも思っていた。
「これはもう、いらない」
 睦は、チェーンから指輪を外すと、遠くの空に向かって投げた。
 一瞬、指輪に夕日が反射したが、すぐに風景に紛れてしまった。
 もう、思い残すことはない。
 睦は手すりに凭れかけていた自転車に跨ると、猛然とペダルを漕ぎ始めた。

更新日:2010-05-09 18:15:13

友情が恋に変わるとき(雄吾x睦)